『okinawan portraits 2010―2012』 普通の中の多様な価値観


社会
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『okinawan portraits 2010―2012』石川竜一著 赤々舎・4860円

 昨年11月、2冊の写真集を同時刊行し、写真界を中心に大きな衝撃を与えている県出身の写真家・石川竜一。そのうちの一冊が本書「okinawan portraits 2010―2012」である。「鮮烈」という言葉が合う写真集だ。

 本島のあらゆる場所で撮られた165点もの人物写真。この本がずっしりと重いのは、単に物質的に分厚く重量があるからではなく、写真1枚1枚の濃さのせいでもあると思える。鮮やかな色彩と、強烈なインパクト。被写体となったのはモデルではなく一般の人々。笑顔の写真はあまりない。その代わり、写真に写るこの人の生き方や価値観や大切にしているものに思いを馳(は)せずにはいられない。
 顔にペイントを施し、マントも着けている子ども。その日はハロウィーンだったのだろうか。顔中にピアスを施した若者。タトゥーをした人も何人も登場する。これらはファッションを超えた彼らの誇りなのだろう。女装した中年男性。きっとこの格好の方が自分らしくのびのびした気分になるように見える。
 写真と通して伝わってくる、多様な生き方や価値観や大切にしているもの。そして背景に写るのは普通の沖縄の街中の景色だ。洗練とは対極にあるような、ごちゃごちゃした風景や室内。それが被写体となった人が生きている「いま」をより濃く物語っている。
 台風で倒れた木の前にたたずみ、風に吹かれている女の子。お墓にたむろする男子中学生たち。沖縄に住んでいれば普通に思えても、沖縄のお墓は本土のそれとは全く違う。閉店のお知らせの貼り紙がドアに貼られた喫茶店の前にたたずむ男性。悲哀を含んだ味わいがある。
 2010年から12年までの「いま」を切り取っている。人物しかり、背景に写る景色しかり、それはその時のもの。その瞬間、瞬間はまたと来ないもの。今はまた変わっている。15年の今、被写体となった人たちは、これらの写真を見て何を思うだろう。(トーマ・ヒロコ・詩人)
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 いしかわ・りゅういち 1984年宜野湾市生まれ。2006年沖縄国際大学卒業。08年、前衛舞踊家・しば正龍氏に師事。10年、写真家・勇崎哲史氏に師事。第35回キヤノン写真新世紀佳作。

okinawan portrait 2010-2012
okinawan portrait 2010-2012

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