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『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』吉田尚記著

コミュニケーションはゲーム
 コミュニーケーション上手になって、モテよう! 出世しよう! お金持ちになろう! そんな本が書店には数多く並んでいる。著者はそのようにコミュニケーションが何かを達成するためのツールとして扱われている現状に疑問を呈するところから書き起こしている。もちろん人生を思うままに運べるのは素晴らしいけれど、コミュニケーションはそのために存在しているのではない。

 「コミュニケーションの目的はコミュニケーション」そのものなのだと語る。
 相手とコミュニケーションが成立した時の、安心や心地よさ。それを得るためにスキルを学ぶと規定すると、コミュニケーションが苦手な人が何をどのようにすればよいのかが見えてくる。目の前の人と何を話したらよいか分からないという人が、いきなり異性をまるめこむテクニックや、交渉を有利に進めるノウハウを覚えようとしても、それは無理というもの。まずは一緒にいて気持ちがいいと思い、思われるためにどうしたらよいのかから始めるのだ。
 ラジオアナウンサーである著者はもともといわゆるコミュニケーション障害だった。思い出すだけで赤面してしまうような数々の失敗をもとに、具体的に自分に課題を与え、それを克服することを繰り返すことで、上手に話しができる人、と認識されるまでになってきた。そこにおいてはよく言われる「自分に自信を持とう」なんて精神論はまったく効果はなかったそうだ。
 「コミュニケーションはゲームである」と主張する著者は、棋譜を読むようにコミュニケーションの流れを読み、サッカーのトラップやダイレクトパスを例にして、会話をコントロールしていく術を伝授してくれる。しかしこのゲームは相手に勝つことを目的とした対戦型ゲームではない。目指すのは、安心や心地よさであるのだから、相手と協力してそういう気分になれるところに向かっていくのである。その際、もっとも核となるのは、相手に気持ちよくしゃべってもらうということ。自分が何を話したいかではなく、相手が話したいと思っていることをいかに引き出すか。そうするとおのずと、相手も自分を引き出そうとしてくれる。
 いかに強い意志を持って我が道を行くのかという生き方が支持を集める世の中にあって、まず自分をなくすというやり方は、単なるコミュニケーション論にとどまらない、示唆に富んだものだ。
 (太田出版 1111円+税)=日野淳
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日野淳のプロフィル
 ひの・あつし 1976年生まれ。出版社で15年間、小説、音楽、ファッションなどの書籍・雑誌の編集に携わり、フリーランスに。今、読む必要があると大きな声で言える本だけを紹介していきたい。
(共同通信)


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日野淳


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