『妻への家路』 女優の魅力を引き出す手腕はさすが


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 チャン・イーモウは、2008年の北京オリンピックで芸術監督を担うなど中国を代表する巨匠として知られている。彼の映画は、およそ三つのタイプに分類できる。(1)『紅いコーリャン』など色彩や構図に凝った初期の作品(2)『秋菊の物語』『あの子を探して』に代表されるリアリズム重視の作品。そして(3)『HERO』などエンターテインメント性の高い作品である。

 では、本作はどうか? 文化大革命で引き裂かれ、心労から夫の記憶を失った妻に、戻った夫が献身的に尽くすという感動作だ。巷では、イーモウらしい原点に戻った作品として高く評価されているようである。恐らく、近年の娯楽色の強い大作路線に対する不満からだろう。
 確かに(1)と(2)の中間あたりに位置しそうだが、タイプによらず彼の映画は、本作も含め常に娯楽性を内包している。通俗性と言い換えた方が正確かもしれない。私見になるが、たとえ意匠を凝らした映像でも、ストーリーやテーマを生かす役割しか担っていないからではないだろうか。映像自体に訴えかける力が弱いのだ。同じ第5世代の巨匠チェン・カイコーとの違いはそこにある。
 ただし、女優の魅力を引き出す手腕は、相変わらずさすがである。名コンビとして知られる妻役のコン・リーしかり、娘を演じている新人チャン・ホエウェンしかり。その意味では、紛れもなくチャン・イーモウらしい新作と言える。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:チャン・イーモウ
出演:チェン・ダオミン、コン・リー
3月6日(金)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也