『ソロモンの偽証 前篇・事件』 サスペンスと青春が見事に溶け合う


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 文庫版で全6巻。宮部みゆきの集大成とも言われる大長編ミステリーを、『八日目の蝉』の成島出監督が2部構成で映画化した、その前編である。クリスマスの朝に雪の校庭で男子中学生の転落死体が見つかり、クラスメートたちが学校内裁判を開いて事件の真相を解き明かす話だ。

 時代設定は、1990年のクリスマスから翌年の夏休みまで。バブルが弾ける直前に当たる。宮部はなぜこの時代を選んだのか? それが事件の謎を解く鍵にもなっているのだが、後編まで見終えると、数年後に起きるオウム事件を意識してのことに思えてならない。見なかったことにして蓋をしてしまっては何も解決しないのだと、中学生が我々大人に教えてくれる映画だから。
 しかも、今どき珍しくフィルムで撮影されている。恐らく当時の空気感を出すためなのだろうが、画面の安定感や演技の質感も含め、まるで往年の日本映画を見ていかのよう。全国オーディションで1万人の中から選ばれた主演の藤野涼子はじめ中学生役の子たちは皆、映画ならではの風情を漂わせている。
 と同時に、まだ何色にも染まっていないまっさらな輝きも放っている。事件を通じて友情を育みながら自分自身と向き合っていく彼女たちを、見逃さないでほしい。端正で重厚、それでいてみずみずしい。サスペンスと青春がこれほど見事に溶け合った映画を、私は他に知らない。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督:成島出
出演:藤野涼子、板垣瑞生、佐々木蔵之介
3月7日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也