『ジョン・F・ケネディはなぜ死んだのか』 神学的弁証法 基に謎解く


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『ジョン・F・ケネディはなぜ死んだのか』ジェイムズ・W・ダグラス著 寺地五一、寺地正子訳 同時代社・3700円+税

 1963年11月、ケネディ米大統領は白昼に衆人環視のなかで暗殺された。この死については諸説紛々で謀殺説も根強い。実際、ケネディは国民的人気とは裏腹に、冷戦の思考に凝り固まったパワーエリートやビジネスエリートのなかで四面楚歌だった。それを暗示するかのように、身辺を警護するはずのシークレット・サービスは彼のそばを離れていた。

 邦訳で700ページを超える本書は、CIA陰謀説にのっとり、ケネディを取り巻く状況を見事に再現する。著者は平和運動家・カトリック神学者で、ケネディの死を今日の私たちの生へと反転させる、危機の神学的弁証法を基に謀殺の謎を解いた。そこから浮かび上がるのは、核時代の最終戦争の恐怖を前にした人間の勇気と、終末論的な希望の原理である。
 本書のサブタイトルにある「語り得ないもの」とは、正義や自由や平和を掲げながら、逆にそれらを戦争の資源にしていくイデオロギーの魔物のことだ。仮想敵や陰謀を作り上げることで権益を拡大するCIAやペンタゴン、敵の存在で利潤を上げる軍産複合体、それらの利益代表である政治家や官僚機構などが組み合わさって、人間をますます好戦的にし、戦争へと駆り立てる。冷戦の最高司令官だったケネディは、それが人類の破滅に至ることに気づき、この語り得ないものに挑んだ。そして最大の敵だったソ連のフルシチョフを頼ったのだ。
 ケネディはソ連と部分的核実験禁止条約を締結し、キューバのカストロとも接触を図った。それに危惧を抱いたのはCIAや軍関係者だった。敵と交渉する者は大統領であろうとも国家反逆者で、正真正銘の敵であるという彼らの思考回路が暗殺を準備した。そして国民は、民主主義体制下で大統領の謀殺など信じがたいと思い込まされ、真実から遠ざけられてきた。
 ケネディ暗殺は何を物語るのか。国家が掲げる正義や自由や平和の内実を私たちが見極め、決然と真実を志向したときには、当の国家が私たちを敵と見なす可能性があるということだ。「真実に向かう勇気の物語」(著者の言葉)は、その意味を今日に問い掛ける。(米田綱路・書評家)
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 ジェイムズ・W・ダグラス 1936年生まれ。米国の平和運動家・カトリック神学者。ノートルダム大学で神学の修士号を取得。学生の反戦活動に参加し、ハワイ大学神学教授の職を辞し、ワシントン州に「非暴力行動のためのグランド・ゼロ・センター」を創設した。

ジョン・F・ケネディはなぜ死んだのか 語り得ないものとの闘い
ジェイムズ W ダグラス
同時代社
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