『渡名喜島―地割制と歴史的集落景観の保全』 科学的手法で核心に迫る


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『渡名喜島―地割制と歴史的集落景観の保全』中俣均著 古今書院・2800円+税

 いい本に巡り合えた。この本は研究者(地理学)の手によるものであるが、論文調ではなく、柔らかな文章でつづられている。それでいて、問題の核心に迫る方法は科学的である。

 副題にあるように、二つのテーマが設定されている。まず地割制については、その研究の経過を踏まえ、残されている数少ない資料を大切に扱って、渡名喜島のその遺構を解説している。
 それは「短冊形状耕地」に特徴があるが、その起源・意義などを検討して、これまでの研究との一致点と不一致点を提示している。ただ、本来、地割制は、地域によって多様であることを本質としていて、それを渡名喜島に即して検討しても、渡名喜島についての理解を深めるだけであり、地割制一般の解明につながるわけではない。また、なぜ地割替えをするのかについても、これまでいわれている「租税負担の公平化」という前提でみるのではなく、本当に租税制度と関係があったのかという吟味が必要なのだが、それはない。
 一方の、歴史的集落景観については、2000年3月に「重要伝統的建造物群保存地区」に選定され、島人を含めて内外の注目を浴びるようになった。それには、島周辺に展開するイノーと呼ばれるサンゴ礁池もすべて含む」し、陸地部分の「歴史的景観保存地区」は、「伝統的建造物群保存地区」と「歴史的景観保全地区」とに分かれている。「伝統的建造物群」は「道路面より沈んだ民家」群などに代表され、「歴史的景観」には、御嶽(うたき)・泉・烽火(のろし)台・魚垣などが含まれている。
 ところで、渡名喜村には「入砂(いりすな)島」もあり、そこはアメリカ軍の演習地となっている。そのことと関わって、村には「基地関連収入」があり、「島田懇事業」も実施された。著者は、台風により被害を受けた「民家の修復」や、「各種インフラ」の整備も、「このような基地関連収入によって、相当部分が支えられてきた」ことを指摘し、「いささかならず割り切れなさを感じざるをえない」という。(来間泰男・沖縄国際大学名誉教授)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 なかまた・ひとし 1952年、新潟県生まれ。東京大学理学部、同大学院修了。博士(理学)。現在、法政大学文学部教授。専攻は、文化・社会地理学、島の地理学、日本島嶼学会副会長。

渡名喜島―地割制と歴史的集落景観の保全 (叢書・沖縄を知る)
中俣 均
古今書院
売り上げランキング: 877,088