『世の光 地の塩』 ひたむきに、前向きに


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『世の光 地の塩 沖縄女性初の法曹として 80年の回顧』大城光代著 琉球新報社・2300円

 本書は、安里積千代氏の娘として、そして沖縄初の女性法曹として活躍された大城光代氏の自叙伝である。

 副題にもあるように、大城氏は沖縄で最初の女性弁護士・女性裁判官、そして女性の裁判官としては初の高裁判事といった幾多の「女性初」で脚光を浴び続けた。第1号の肩書きとプレッシャーには計り知れないものがあったはずだが、本書を読了すれば、ひたむきでありながらも前向きな大城氏こそ、そのような「第1号」の称号にふさわしい人間性をそなえられた方であることが理解できるだろう。
 第1章「台湾時代」、第2章「故郷を去る」、第3章「大学時代」、第4章「司法試験合格へ」、第5章「弁護士として」、第6章「裁判官への転身」、第7章「転勤」、第8章「那覇へ帰る」、第9章「再度の転出」、第10章「六五歳からの履歴書」の全10章から成る本書は、県民のパイオニアとしての大城氏個人の軌跡としてだけでなく、戦後沖縄の法曹史研究にとっても貴重である。
 ちなみに、評者は台湾研究を専門とするため、なかでも冒頭の台湾での生い立ちから引き揚げに関する部分が印象深かった。台湾での日々の生活と引き揚げ前後の状況が臨場感あふれるタッチで克明に記されており、当時の台湾の日常生活を知るうえで、研究者にとっても第一級の史料として参照価値の高い内容となっている。
 また、台南の飛虎将軍廟には杉浦少尉という日本兵が祀(まつ)られているが、その少尉の遺体を収容したのがご尊父の安里積千代氏であった事実も記されており、興味深い。
 本書は、ご尊父の自叙伝『一粒の麦』とあわせて読むことで、激動を生きた沖縄出身者とその時代に対する理解を深めることのできる一冊である。そこには、地域、ジェンダー、世代と、あらゆる境界を越えて活躍されてこられた大城氏の、先駆者としての、そして一人の人間としての芯のある生きざまが詰まっている。多くの方に一読をおすすめしたい。
 (菅野敦志・名桜大学上級准教授)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 おおしろ・みつよ 1932年、台湾生まれ。日本大学法学部卒業、57年日本全国司法試験に合格、県内初の女性弁護士となる。那覇家裁所長、那覇地裁所長を歴任。退官後、県行政オンブズマンや県男女共同参画審議会会長を務める。