『戦争の教室』 各々が戦争の思い展開


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『戦争の教室』松本彩子代表編者 月曜社・1800円+税

 「戦争の教室」という本のタイトルから、いわゆる戦争論や平和論、戦争の歴史論などが、分かりやすく展開されているような内容を想像していた。そうではなく、80人にも達する執筆者が、各自の体験や思い、見聞、仕事などを通し、各自の「戦争」に絡めて、話を思い思いに展開している。もちろん感銘を受けるほど人間の戦争を深く分析している作品もある。

 これほど多数の執筆者の思いをどのようにまとめていくかというと、それはかなり困難である。編者はこれを執筆者の生まれた1900年代から90年代まで分類することによって、整理した。このように分けたことで、全体を通した際に、年代ごとの特徴が少しずつ浮き出ている。
 戦後70年になり、多くの人にとって戦争とは、太平洋戦争のことに収れんされるであろう。しかし、本書ではそうではなく、日中戦争はもちろんだが、明治維新の戦争や日本と直接的には関係のないアフリカやアフガニスタンなど海外の戦争について主体的に言及しているものもある。
 また、社会との戦争、つまり社会の偏見から子どもを守る戦いのことを述べている執筆者もいる。こう考えると「戦争」という言葉だけでは、結構な広がりを持っており、各執筆者のテーマは関連性がないとはいわないが、なかなかまとまりがついていない観がある。このあたりはもう少し絞った方がよかったと思う。ただ、原発や震災をテーマにした執筆者も多く、戦災と震災の共通性について重要な問題意識を提供するなどしている。
 沖縄在住の執筆者あるいは沖縄戦に言及した執筆者も名を連ねており、なじみのある沖縄の歴史や地名なども出てくる。沖縄戦の図で有名な丸木夫妻の絵も掲載されており、執筆スタイルは必ずしも論考や随筆などに縛られず、写真や詩などで思いを表現したものもある。写真といえば、表紙の写真、小さな子どもたちが軍服を着ている姿にも、忍び寄る「戦争社会」に警鐘を鳴らし、戦争を学ぶことの大切さを訴える編者の思いがよく伝わってくる。(高良鉄美・琉球大学教授)
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 まつもと・さいこ 1970年、群馬県生まれ。編集者。共著に「ちょっと長い関係のブルース 君は浅川マキを聴いたか」「江戸東京 味の散歩」。

戦争の教室
戦争の教室

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