『陽だまりハウスでマラソンを』 じいさんの気持ちが身に染みて…


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 高齢者社会を象徴するように、老人ホームの入居者が最後に一花咲かせる映画がずいぶんと増えた。中国映画『グォさんの仮装大賞』はタイトル通り、人気テレビ番組の仮装大賞出場を目指す。ダスティン・ホフマン監督の音楽家専用老人ホームを舞台にした『カルテット!人生のオペラハウス』は発表会を開こうとする。中でも老体に鞭打って、最も過激な挑戦をしたのは本作ではないか。

 1956年のメルボルン・オリンピックの男子マラソン金メダリストで、西ドイツ代表のパウル・アヴァホフ選手が、妻の死や老人性うつ病などを克服しながらベルリンマラソン出場に挑む! 演じるのはドイツの名優ディーター・ハラーフォルデンで、撮影当時78歳。日本人に例えたら、浜村淳や美輪明宏にフルマラソンを走らせるようなもん。ウディ・アレン監督なら…イケるかも!? いずれにしても、実際に約4万人が参加するというベルリン・マラソンに彼を放り込んで撮影したというのだから、大迫力のクライマックスとなることはお約束。
 ただ、この手の話は決まっている。年がいもなくむちゃな行動に走る老人VS理解を示さない子供たちや施設職員。特に、昔取ったきねづかで自分の体力を過信しがちな元運動選手が一番危険だ。規則や管理責任を問われる施設側の事情も分かる。だがこれは、いかに人間が尊厳を持って最期まで生き抜くかがテーマ。自分もそっち側の年齢に近づいてきたので、じいさんの気持ちが身にしみて分かるのだ。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督・脚本:キリアン・リートホーフ
脚本:マーク・ブレーバウム
出演:ディーター・ハラーフォルデン、ターチャ・サイブト
全国順次公開中。
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美