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楽しく学べる本である。自然をどう理解し、どう接するかをあらためて考えさせられる事例や視点が、随所にちりばめられている。沖縄や広く東南アジアの国々における、幅広い調査研究や自然観察に基づいて、動物たちの興味ある暮らし、異文化理解や自然資源管理、自然との接し方に関する問い掛けなど、熱帯域から沖縄を見る視点も示されており、多くを学ぶことができる。
形態と習性が、長い歴史的産物として生息地の環境特性との関連において語られている。なじみ深い動物に関する著者ならではの理解や初めて知る生き物たちの素顔に接して、長年の疑問が晴れることも多い。広い分布域の中で、生活史の重要な部分を弾力的に変更する種がいる一方で、近縁種が基本的習性を保持し続けている様子も興味深い。
特定の種の認識において、従来受け継がれてきた理解が、よく観察するとどうも違う種のようだということがしばしば起こる。琉球列島の位置や黒潮の流れの東西に分布する種の浮遊幼生の定着のチャンスに関する深い洞察から、ごく普通に見られる種を新種記載した話など、いくつかの新種発見の裏話も紹介されており、沖縄の海産動物相の成立について示唆を与えてくれる。
競争原理で自然を理解しがちな通り一遍の理解からの解放、互恵的共生関係の妙、共生の視点で自然をどう見るかという問いを投げ掛ける。生態系の保全や持続的利用を叫ぶ自然界の動物とは異なる「ヒト」である私たちが、個々の自然観を確立する上で多くのヒントが随所に示されている。
私たちは、読書によって自分の限られた体験を補い、本に記された事実や現象に関する理解がこれまでの理解を超える場合には心躍る興奮を覚え、自分の見方や考え方を拡大し、修正し、深化させることができる。このような意味でも、「カニのつぶやき」の臨場感あふれる簡明な記述に触れて、あたかも同行しているような躍動感を覚える。自然観察を楽しむものにとっても、とてもよい参考になるに違いない。(西平守孝・沖縄美ら島財団参与)
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こすげ・じょうじ 1964年、東京生まれ。京都大学理学部卒。理学博士(九州大学)。現在、県立石垣青少年の家事務長。国際マングローブ生態系協会主任研究員。
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