『地域のなかの軍隊6』 今に続く基地による社会変容


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『地域のなかの軍隊6 大陸・南方膨張の拠点 九州・沖縄』林博史著 吉川弘文館・2800円+税

 待望の軍事史研究書である。「刊行にあたって」でも述べているように、これまで軍隊や軍事史の研究が遠ざけられていたが、近年地域を視点とした軍隊の研究、具体的には連隊設置による社会基盤整備や地域経済への波及効果、地域での戦死者の慰霊、連隊と地域住民との交流などの研究が進み、蓄積されつつあるという。

本書は、こうした研究蓄積のある「軍都」小倉・「軍都」熊本・「軍港・工廠(こうしょう)」佐世保・「特攻基地」鹿児島、沖縄は日本軍や米軍と地域との関係を取り上げている。
 沖縄での戦争史の研究成果は上がっているが、これまで日本軍の作戦・組織・戦闘などの軍事史研究では戦史叢書(そうしょ)「沖縄方面陸軍作戦」にもっぱら依拠していた。そこで、新たな軍事史構築に向けて、本書の編者も専門委員である「沖縄県史沖縄戦編」で軍事史研究の基礎資料として第32軍関係の原史料を収録した「沖縄戦日本軍史料」を発刊した。
 「日本軍と沖縄社会」では、第32軍が沖縄に駐屯したことによる住民生活への影響、戦場での日本軍の住民に対する理不尽な行為、さらに第32軍配備以前の沖縄の軍事施設や「軍都」与那原などと、基礎資料を踏まえた研究成果の一端が描かれている。また沖縄に郷土部隊といわれる歩兵連隊が設置されなかったことにより、沖縄出身兵は本書に記されている小倉や熊本などに設置された九州各県の連隊に配属されたことや戦前期に沖縄を軍事管轄した熊本第6師団の記述は興味深い。
 「沖縄の占領と米軍基地」では、沖縄戦や米軍基地建設によって従来の生産基盤が破壊されたため、住民は軍作業・労務で糧を得ることを余儀なくされ、さらに拡大する基地に比例して基地労働者が増加していくことを数値によって証明している。基地によって地域社会が変容した歴史は現在につながる米軍基地の基本的な姿として捉え、かつ現在進行形であることを指摘していることに共感を覚える。
 今後発刊されるシリーズも読んでみたい。比較することで物事の本質が分かることもある。(吉浜忍・沖縄国際大教授)
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 はやし・ひろふみ 1955年、神戸市生まれ。85年、一橋大大学院社会学研究科博士課程修了。現在、関東学院大教授、社会学博士。著書に「沖縄戦と民衆」「沖縄戦 強制された『集団自決』」など。

大陸・南方膨張の拠点: 九州・沖縄 (地域のなかの軍隊 6)
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