『やさしい女 デジタル・リマスター版』


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映画の本質に近づける作品
 1969年に発表されたブレッソンの初のカラー作品が、デジタル・リマスター版でリバイバル公開される。原作がドストエフスキーで、『暗殺の森』『1900年』などで知られる人気女優ドミニク・サンダのデビュー作であるにもかかわらず、日本での劇場公開が86年の初公開時以来ということからも分かるように、彼の代表作とは言いがたい。それでも、スクリーンで見られるこの機会を紹介しないわけにはいかない。ブレッソン作品を見ることは、映画を見ることと=(イコール)だから。言い換えれば、その画面には、映画とは関係のないもの、“映画的”ではない要素は一切映っていないのだ。

 質屋を営む主人公の若く美しい妻が転落死した理由が、回想形式で語られる。夫婦の葛藤が丹念に描かれるのだが、2人の内面は常にモノローグで説明され、心よりも身体(の部位)が強調される。かといって、主人公の手や行動が内面を示唆するわけでもない。画面もセリフもストーリー自体にはほとんど寄与していないのだ。そんなブレッソン作品に共通する特徴を洗い出すことで、あるいは他の監督の作品にあって彼の作品にない要素を消去していくことで、我々は着実に映画の本質へと近づけるのである。
 もちろん映画の鑑賞法は自由だ。10人の観客がいれば、10通りの感想があっていい。けれども、もしアナタが「映画が好き」と口にするのならば、それが「ブレッソン作品が好き」と同じ意味であることを自覚していなければならない。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:ロベール・ブレッソン
出演:ドミニク・サンダ、ギイ・フランジャン
4月4日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

外山真也