『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』


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雇われ仕事でも松尾ワールドは健在
 松尾スズキの約8年ぶり、長編では3本目となる監督作だ。いがらしみきおの漫画が原作。お金恐怖症に陥った元銀行マンが、都会を離れて東北の過疎の村で一切お金を使わないで生きていこうと奮闘する姿を、オフビートな笑いに包んで描いている。

 前作『クワイエットルームにようこそ』が芥川賞候補になった自身の小説の映画化だったのに対し、今回は他人の原作に基づく、いわゆる雇われ仕事。それでも、ネガティブな要素や、時にはドス黒いものまでも笑いに転換して描き、決して良しあしを結論づけない松尾ワールドは、十分に健在である。
 そして、何より好感を覚えるのが、小説でも舞台でもなく、映画を作ろうとする彼の意志がしっかりと画面から感じ取れるところ。例えば、阿部サダヲが荷物をバスに運ぶ際の意表を突くふるまいからは、笑いと同時に運動性も立ち上る。人が転んだり、物が落ちたりする時の唐突感もしかり。あるいは、日常と超常、都会と田舎、屋外と室内などの緩急etc.。劇作家、舞台演出家、役者、小説家、コラムニスト…マルチな才能で知られる松尾スズキだが、映画監督としても可能性を感じさせるので、次は8年後と言わず、もっとコンスタントに撮り続けてほしい。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督・脚本・出演:松尾スズキ
原作:いがらしみきお
出演:松田龍平、阿部サダヲ、松たか子、西田敏行
4月4日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也