映画『JIMI:栄光への軌跡』


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淡々と描く天才ギタリストの駆け出し2年間
 1969年8月に米ニューヨーク州で開かれた平和と音楽の祭典「ウッドストック・フェスティバル」で、最終日の大とりを務めたのが、ジミ・ヘンドリックス(以下、ジミヘン)だった。中でも印象深いのが、ジミヘンが米国の国歌『The Star Spangled Banner』を演奏した場面だ。

 頭にバンダナを巻いたジミヘンは、ベルボトムのジーンズ姿。エレキギターのアームを巧みに操りながら、ひずんだ爆音を会場に響かせていた。録画された映像をいつ見たのかはっきりと覚えていないが、国歌をロックへと昇華させたパフォーマンスに、米国の懐の深さと音楽の自由さを感じたのを鮮明に覚えている。
 そのジミヘンの伝記映画『JIMI:栄光への軌跡』(4月11日から全国公開)を見た。物語で描かれるのは1966~67年の2年間。ギタリストとしての才能を見いだされ、スターへの階段を上り始めた時期だ。ジミヘンを演じるのは、米人気ヒップホップユニット「アウトキャスト」のアンドレ・ベンジャミン。
 ある人物の人生にスポットライトを当てた映画やドラマを作る場合、駆け出しの数年間で終わらせてしまうのは珍しい。人生のクライマックスと言える出来事か、亡くなるまでを描くのがセオリーだろう。
 ところが、ジョン・リドリー監督は、一般的な手法をとらなかった。なぜか。それは映画の時間的な制約の中でジミヘンの素顔を描き出そうとしたからなのだと思う。
 約2時間の物語。ジミヘンと彼を取り巻く女性たちを軸に展開していく。劇的な場面は少なく、淡々と進んでいく印象だ。映画に感動を求めている人にはやや物足りないかもしれないが、逆にこれこそがジミヘンそのものだったのだろう。あれほどのロックスターでもステージを降りれば、何かに喜び、傷つき、悩む、物静かな男だったのだから。
 ジミヘンが27歳で亡くなってから9月で満45年になる。あまりにも短かった生涯について、偉大なる天才ギタリストは天国で今、何を考えているだろうか。(松木浩明・共同通信記者)
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 まつき・ひろあき 1996年に入社。現在文化部で音楽担当。“ジミヘン”という言葉に中崎タツヤの漫画も思い出す。
(共同通信)