『時空超えた沖縄』 文学・芸術の源流


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『時空超えた沖縄』又吉栄喜著 燦葉出版社・1800円+税

時空超えた沖縄

 作家の又吉栄喜が、40年間も注文を受け書きためてきたエッセーを、初めて単行本に編集して出版した。膨大な作品群から選抜し、「第一章 原風景1」「第二章 原風景2」「第三章 自然1」「第四章 自然2」「第五章 戦争」「第六章 米軍基地」「第七章 祈り1」「第八章 祈り2」と構成してある。

 その一篇(ぺん)一篇が独立した作品であると同時に、全体を通して「作家にとってエッセーとは何か」という問い掛けが貫かれている。数多くの作品が読みやすいが、その中でも「木登りサール」「放射能雨」「想像の浦添」闘牛賛歌」「沖縄の楽天性」などが特に印象に残っている。
 それにしても、「原風景」の章のエッセー群は又吉文学・芸術の源泉を描き出している。「少年時代の『原風景』が現在にもつうじる普遍性を帯び、人間の問題にも通底すると考えるようになり、エッセーを基に小説を書き始めました」(5ページ)と述べている通りである。
 私は、又吉とほぼ同世代なので少年時代に「放射能雨」などの似たような体験をしている。従って、それらの体験の中から何が「現在にもつうじる普遍性」として選ばれ「小説化」されたかもよく分かる。又吉の体験は、単に「自叙伝的記録」に止まらず、文学・芸術として描き込まれているのである。
 又吉は「田宮虎彦の『足摺岬』とか、太宰治の『津軽』とかのように浦添を想像で形象して、後世に残したいという見果てぬ夢を見ている」(「想像の浦添」59ページ)とも述べている。
 ぜひ挑戦し実現してほしいものだ。浦添の原風景から書き込んでいって「時空超えた沖縄」のかなたに「津軽」のような言語空間の名作が生まれてほしい。
 すでに、作品「沖縄の楽天性」で時空超えた沖縄について書いた又吉には、決して不可能な要望ではないと思う。本エッセイ集はその文学・芸術の豊かな源泉を指し示している。(高良勉・詩人、批評家)
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 またよし・えいき 1947年、浦添市生まれ。琉球大法文学部史学科卒。99年まで浦添市役所に勤務。その傍ら、創作を始める。九州芸術祭文学賞、すばる文学賞、芥川賞などを受賞。