細部の魅力に満ちている
ポール・トーマス・アンダーソンの新作だ。原作はトマス・ピンチョン。ヒッピーでマリフアナ中毒の私立探偵が、不動産王の愛人になった元カノから彼の窮地を救ってほしいと懇願され、土地開発に絡んだ国際麻薬組織の陰謀に巻き込まれてゆく…。
緊張感みなぎる傑作だった前2作『ザ・マスター』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』と比べると、コメディー要素の強い今回は、少し力を抜いて楽しんで撮っている印象を受ける。実際、『マグノリア』以降の4作品全てが世界三大映画祭で主要賞に絡んでいることを考えれば、天才監督の新作としては物足りない出来なのかもしれない。
それでも本作を見れば、誰もが「間違いなくPTAの映画だ」と納得するはずである。まず、端正なのに生々しい画面の強度は相変わらずだし、例えば登場人物たちの予測不可能なふるまいの数々は、俳優が複数の芝居を同時に要求されテンパっているかのような過剰さに満ちている。演技も大仰なのに無表情だったり、どうでもいいところで大声を出したり…ストーリーとは直接関係のない細部の魅力に満ちているのだ。まさに「神は細部に宿る」である。否、作品全体を見渡してみても、1970年前後のアメリカ西海岸ならではのポップでカラフルなトーンに世界観が統一されていて、出来は少しも悪くない。★★★★★(外山真也)
【データ】
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ホアキン・フェニックス、ジョシュ・ブローリン
4月18日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)
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