『セッション』


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確かな技量と知性に裏打ちされた若さ
 結論から言えば、こういう芸術至上主義は嫌いではない。若さが、確かな技量と聡明な知性に裏打ちされているから。監督は1985年生まれのデイミアン・チャゼル。サンダンス映画祭でグランプリと観客賞をW受賞し、アカデミー賞でも助演男優賞はじめ3賞に輝いている。

 名門音楽大学を舞台に、上昇志向の強いドラム専攻の主人公と鬼教師の関係が描かれる。だが、その関係性は現代的ではない。本作が面白いのは、主人公が厳しいレッスンによって才能を開花させていくサクセスものでもなければ、優れたメンターを得て人間的な成長を遂げる話でもない点にある。それどころか、いつまでたっても大人になれない2人は師弟関係ですらなく、子供のケンカを見ているかのよう。今の時代にそぐわない故に斬新なのだ。
 でも、芸術とは元来そういうもの。分別や安定を拒む、成長とは対極にあるものではないだろうか。とりわけ、そのテーマが究極の達成をみせるのが、10分近くに及ぶラストの“セッション”。詳しくは書けないが、この見事なクライマックスを生んだのは、斬新な発想ではなく確かな演出力だ。例えば、観客のイライラ感を持続させる幾重ものテクニックや、低予算であることを逆手にとった少ない光量でのルックの統一…。若さみなぎる本作は、新人監督の老練なまでの技量と聡明さに支えられているのである。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ
4月17日(金)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也