『龍三と七人の子分たち』 北野印のギャグ満載ドタバタ劇


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 引退した元ヤクザが、オレオレ詐欺を働く“半グレ”たちを成敗する痛快娯楽作。『ソナチネ』や『HANA-BI』に代表されるような、北野監督が描き出す“キタノブルー”や“乾いた暴力”に魅了されてきた北野信者にとっては賛否分かれるところ。

 しかし、巨匠とか国際映画祭で得た権威とかを脱ぎ捨てて、初期の『みんな~やってるか!』を彷彿させるようなギャグ満載のドタバタ劇を作れるようになった環境と心境を歓迎したい。しかも内容は、毒ガスがウリでもある北野監督らしい、「毒をもって毒を制する」という社会風刺劇。紛れもなく北野印だ。
 特に後半は、『FNS27時間テレビ』で恒例の生中継コントに匹敵するような、狭い商店街を大型バスで次々と破壊していくという、無駄に金をかけたカーチェイス・シーンまである。つい最近、同様にジイさんたちがバスジャックをする映画があったが、「これくらいやんなきゃ面白くねぇだろ!」と見せつけるような、お笑い芸人のプライドと監督としての妥協なき姿勢を感じさせてくれる。そしてコレ、文化庁文化芸術振興費の助成作品でもある。そのお墨付きのロゴも、しっかり笑いに変えてしまう強さには恐れいった。
 それにしても、『アキレスと亀』『アウトレイジ ビヨンド』に続き、中尾彬がまたも悲惨な目に。クセになってきました。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一
出演:藤竜也、近藤正臣、中尾彬、品川徹
4月25日(土)から全国公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

(C)2015『龍三と七人の子分たち』製作委員会
中山治美