『古代歌謡とはなにか』 歌から読み解く社会・歴史


社会
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『古代歌謡とはなにか 読むための方法論』古橋信孝、居駒永幸編 笠間書院・13000円+税

 本書は、琉球歌謡と「古事記」「日本書紀」「万葉集」「風土記」の古代歌謡を対象としている。方法としては、表現様式に徹底的にこだわることで、「歌謡の生態」「歌謡と物語(歴史・神話)」「歌謡から和歌へ」「対論 歌謡の人称」「研究史」「歌謡研究概観」について古代歌謡と琉球歌謡の枠組みや時代差を超えて論じている。

 例えば、「対論 歌謡の人称」で居駒永幸は、叙事の一人称について、八千矛の「神語」と宮古の神歌の表現を比較検討し、「人称の混在」であると述べ、「場面人称」というタームを使って、叙事の人称が場面に応じて三人称や一人称に変わると述べている。
 それに対して、島村幸一は、オモロや宮古の神歌について、「名乗り」をキーワードとして分析し、歌唱者の立場の相違によって、一人称になる場合と三人称になる場合があると述べる。
 前者は〈歌の場〉、後者は〈歌唱者の立場〉を踏まえた論考であるが、いずれも琉球歌謡は「古代的」な表現様式であるという共通の認識である。
 編者の一人である古橋信孝は、「作品内に限定して普遍性の側に立って読むことは、周辺の作品や前代、後代との繋がりを遮断して読むことになる」との見解を示し、「ある社会に生きた人間の営為として作品を読むこと」が重要であると述べる。
 そして、そのような作品の読み方を共有する執筆陣は、ウタを通して、〈防人の妻〉〈渡唐と女たちの踊合〉〈求婚と天皇の誕生〉〈文物の渡来〉〈交通網〉など、作品の社会的・歴史的な背景を浮き彫りにしている。
 また、本書は、大学の枠組みを超えた共同研究であり、沖縄の歌謡は立正大学、歌謡と和歌は明治大学、童謡・時人は武蔵大学、民謡は國學院大學とそれぞれ分担して研究史を執筆しており、近年の閉塞状況の文学研究の中で、本書は若い院生と教員が共通のタームと表現様式を共有して論じた意欲的な研究書である。
 (狩俣恵一・沖縄国際大学教授)
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 ふるはし・のぶよし 1943年東京生まれ。東京大学大学院博士課程修了。博士(文学)。武蔵大学名誉教授。

 いこま・ながゆき 1951年山形生まれ。國學院大學大学院博士課程修了。博士(文学)。明治大学教授。

古代歌謡とはなにか: 読むための方法論
笠間書院
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