『琉球妖怪大図鑑(上)』 通俗的口承重んじる


社会
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『琉球妖怪大図鑑(上)』小原猛・著、三木静・絵 琉球新報社・1480円+税

 「妖怪博士」と言われる小原猛氏が、「琉球怪談」に次ぎ、「琉球妖怪大図鑑」を発表した。日本本土では多くの怪談や妖怪が映像化され、「ゲゲゲの鬼太郎」や「妖怪ウォッチ」のようにキャラクター化されている。古くは菱川師宣や葛飾北斎、近代では小泉八雲、戦後は水木しげるといった人々によって、日本の妖怪や幽霊は形を与えられてきた。

だが琉球の妖怪の容姿に関しては、文献も図像も少なく、その形も明らかでない。おなじみの「キジムナー」に関しては、水木しげるが描いたものの、「木の霊」と勘違いして日本全土に伝えてしまった。
 小原氏は、沖縄県内の古本屋を訪ね歩いて文献資料をかき集め、簡潔な文体で描写していった。イラストレーターの三木静氏が、その語感を忠実に捉え、〈あやかし〉の存在を絵にしていった。「イチジャマ」のように生き霊を視覚化するのに苦労したものあり、よろいを着けた妖怪「儀部鉄人」のようにイメージしやすいものは、ヤマトの亡霊像を参考にした。
 京都出身の小原氏は、幼い頃から妖怪が身近な存在であり、まさに百鬼夜行の〈あやかし〉の世界を体感してきた。だからこそ、島くとぅばで表記される神々や琉球古来の信仰に深い興味を持ち、徹底的に調べ上げてきた。例えば、金武町の「億首」の由来についてだが、妖怪が薩摩侵攻で武将の首を次々と打ち取った伝承を取り上げ、史実とは異なっても重要な引力を感じたという。
 研究者が触れないような通俗的な口承も重んじる姿勢が、この「琉球妖怪大図鑑」の魅力となっている。上下2巻で取り扱う妖怪の総数は、102体を数える。柳田國男は説話や伝承を採集し、日本人の死生観と民族性を明らかにして、「日本民俗学」を構築していった。本書のような入門書があってこそ、ウチナーンチュの子どもたちが琉球の妖怪や伝説に親しみ、「琉球民俗学」を担う人材が育っていく。琉球の妖怪たちが、〈琉球アイデンティティー〉を後押しする学問「琉球民俗学」と結び付く媒介となることを期待したい。(須藤義人・沖縄大学准教授)
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 こはら・たけし 1968年、京都生まれ。怪談、妖怪、ウタキがフィールドワーク。

 みき・しず イラストレーター。兵庫県出身。デザイン事務所、建築事務所などの勤務を経て現在に至る。