『名桜叢書 第一集』 感動的な看取り看護の実践


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『名桜叢書 第一集 ものごとを多面的にみる』第1集編集委員 名桜大学・2000円+税

ものごとを多面的にみる (名桜叢書)

 名桜大学は、昨年、開学20周年と公立大学法人化5周年を迎えた。大学での研究や教育を広く社会に紹介する目的で叢書が発刊された。ことし、あと2冊が刊行予定とのことだ。

 タイトル通り多面的に、「サンゴ礁の生物を多面的に観る」「オモロいぞ、沖縄・ヤンバル」「心を癒すフットケア」などの論考が並んでいる。巻末の作家のよしもとばなな氏と日本ロレックス社長のブルース・R・ベイリー氏の対談が面白い。よしもとは大学に行くつもりはなかった、ベイリーも漁師になるつもりだった。
 しかし2人とも「行って良かった」と結論、「夜の大学」(居酒屋)にもどんどん行ってくださいと勧めている。さてこれでは大学を否定することになりかねないので、これは、と思った箇所をピックアップしてご紹介する。
 大城凌子氏の「看取り難民ゼロ」を目指してでは、実際の現場で起こっている問題を明確に、可能な解決策を探るために、研究者と当事者が協働で取り組む研究方法(アクション・リサーチ)を実践している。計画・実践・評価を繰り返して、らせん状にケア・ネットワークが形成される、と報告している。住民と共にPDCAを回すプロジェクトだ。
 ハンセン病患者と添い寝する伊波弘幸氏の看取り看護の実践は感動的だ。患者は死んでも差別される。末期がん患者が他の病院で亡くなった後、「顔や腕には痛々しい注射の跡やチューブを固定化していたテープの跡が残ったまま」帰園した。夜勤看護師3人は涙を流し、「一人じゃないよ、みんな付いているからね」と言葉をかけながら、入浴させお気に入りのスーツに着替えさせ、死に化粧を施すと「まるで今までの苦痛から解放されたかのように安らかな顔になりました」
 こうした体験者が教員を務めている大学は稀有(けう)ではないか。誇るべきだ。最後に、名桜大学は現代史の焦点・新軍事基地建設問題の現場を抱えている。ぜひ後続のシリーズで辺野古の「足元を掘る」論考を期待したい。
 (緒方修・東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター長)
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 だいいっしゅうへんしゅういいん メンバーは名桜大学の金城亮国際学群教授、小番達国際学群上級准教授、小賦肇人間健康学部上級准教授、大城凌子人間健康学部上級准教授、松田弥生附属図書館事務担当。