『現場の奄美文化論』 奄美文化の具体的変容


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『現場の奄美文化論―沖縄から向かう奄美―』津波高志著 沖縄文庫・1620円、電子書籍。ソニー・リーダーストアでダウンロード販売

 著者の長年にわたる奄美の民俗学的研究の成果は、すでに2012年の前著「沖縄からみた奄美の文化変容」(第一書房)として世に出ている。今回の電子出版による本書は、その続編といってよい。実際、その中身も前著に引き続き、奄美地方各地における葬墓制、相撲、神役の継承といった複数の事象に関する論考からなる。

ただし、前著に比べて、本書では相撲のウエートが大きくなっている(本編9章のうちの五つの章)。
 一見、対象が多岐に渡っているが、著者が奄美文化の研究において追求してきたテーマは、沖縄と同じ琉球弧に属する奄美文化が、薩摩・鹿児島との長期的接触によってどのように変容を遂げてきたかという点で一貫している。例えば、相撲に限って紹介するなら、砂地で最初から組んで始める奄美の伝統的相撲(沖縄相撲もこれに含まれる)は、土俵上で立ち会う大和式相撲に取って代わられた、というように。
 そして、ここが著者のもっとも重要な主張と思われるが、大和文化は、そのままのかたちで受容されたのではなく、基底にある奄美文化によって新たな意味づけがなされた上で受容されたのだという。それが文化変容の具体的様相である。
 さて、本書のユニークな点をもう一つ挙げるなら、それは研究の舞台裏を披露した、いわばメーキング編としても読めることである。というのも、本書では、フィールド調査が実際にどのように準備され、どのような過程で進行するのかといったハウツーだけでなく、そこにはどのようなハプニングや失敗談があるのかといった舞台裏が惜しげもなく披露されているからである。
 全編を通して、親しみやすく、時にはユーモアもまじえた語り口によって、読者は奄美文化の研究へと楽しく誘われる。そして、本書を読み終わった時には、豊年祭相撲を見に一度奄美に足を運んでみようかという気にさせられることだろう。
 (安藤由美・琉球大学法文学部教授)
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 つは・たかし 1947年生まれ、名護市出身。社会人類学者。東京教育大学大学院博士課程修了、2012年に琉球大学法文学部教授を退官。著書に「沖縄側から見た奄美の文化変容」(第一書房)など。

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