『百日紅』 江戸の情景が生き生きと浮かび上がる


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

『百日紅~Miss HOKUSAI~』

 昨年、江戸の風俗文化などを描いた『北斎漫画』が出版200年を迎えたこともあり、再注目を浴びる浮世絵師・葛飾北斎。ロンドンやミラノも巡回した東京デザイナーズウィークでは、気鋭アーティストによる『北斎漫画インスパイア展』も行われた。

そんな絶妙なタイミングでの、北斎の娘・お栄(のちの葛飾応為)を主人公にした杉浦日向子原作『百日紅』のアニメ化だ。しかも監督は、秀作『河童のクゥと夏休み』の原恵一。
 父親の代筆もしていたと言われる応為の存在はかなりミステリアス。でも、映画のエンディングロールに登場する応為が描いたと言われている絵が幻想的で美しいだけに、どんな気持ちで絵と向き合い、代筆に甘んじていたのかを感じたかったのだが…。才能はあるが家庭を顧みない北斎という、娘から見た父の印象を強く感じる作品となった。
 でも、天才と言われるアーティストに絵が天から降りてくる瞬間や、江戸庶民の暮らしぶりの細やかな描写はさすが! 妹お猶の目が不自由ということもあり、街の喧騒などの効果音が効いていて、江戸の情景が生き生きと浮かび上がってくる。日本のアニメーションの芸の細かさを再認識させられた。本作を入り口に北斎、そして応為を探究したくなる。知的好奇心を大いにくすぐる作品である。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:原恵一
原作:杉浦日向子
声:杏、松重豊、浜田岳、高良健吾
5月9日(土)から全国公開
(共同通信)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。

(C)2014-2015 杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会
中山 治美