『戦争と福祉について ボクらが考えていること』 沖縄戦の教訓、国民に警鐘


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『戦争と福祉について ボクらが考えていること』大田昌秀他著 本の泉社・1500円+税

 昨今の安倍政権の暴走と、それに賛同、あるいは高みの見物を決め込む日本国民に危機感を持つ一人として、本書の刊行に大きな意義を見いだしている。

 「戦争とは、人を殺すことまでをも合法化する『弱肉強食』の極みであり」その弱者である障がい者は、生きることさえ許されない(本書コラム)、という過去の教訓をよそに、今や日本の政治は「集団的自衛権」行使容認、「特定秘密保護法」施行などなど、戦争のできる国に大きくかじを切ろうとしている。
 本書は、このような日本の現状を憂い、戦争と障がい者・子ども・文化・福祉事業という多角的な視点から、戦争のリアリティーを若者たちに訴えようと、研究者、ジャーナリストら11人によって緊急に出版された。本書の論考は、福祉の現場から寄せられた7本のコラムによって補完され、さらに、沖縄戦の具体的事例がその裏付けとして、文章全体を分かりやすくふくらませている。
 浅井春夫氏は、沖縄戦による戦争孤児の調査を通して、大量の子どもたちの衰弱死が米軍による“ネグレクト”という、子どもの生命保持の政策がなかったことが要因だったとして「戦争は戦中も戦後も、役立たない人間は福祉の対象とはしなかった」と、厳しく批判する。
 また、身内を失って自分だけが生き残ってしまったという“罪悪感”にさいなまれる女性たちや、戦争によって障がい者が負わされた苦悩を論述した山城紀子氏は、戦争が終わってもなお、米軍基地が居座り続けるために「心の傷」が癒やされることのない、あるいは精神障がい者の多い沖縄の実情を訴える。
 このような悲劇が生じた沖縄戦の構造を論じ、本書をより立体化させたのが、大田昌秀氏の特別寄稿だ。「地元住民に対する極端ともいえるほどの猜疑心(さいぎしん)、もしくは不信感」を持った日本軍の駐留によって、どれだけ多くの犠牲を生んだか、そして「軍事力では国民の生命、財産を守ることはできない」という沖縄戦の教訓を、説得力を持たせて論じ、日本国の現状に警鐘を鳴らしている。(宮城晴美・沖縄女性史家)
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 おおた・まさひで 1925年、久米島町生まれ。45年、沖縄師範学校在学中に鉄血勤皇隊に動員される。早稲田大学卒。シラキュース大学大学院修士課程修了。68年に琉球大学教授に就任。90年から県知事を2期8年務めた。

戦争と福祉についてボクらが考えていること
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本の泉社
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