『抗う島のシュプレヒコール』 説明の要らない表現力


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『抗う島のシュプレヒコール』山城博明著 岩波書店・2200円+税

 表現力のある写真というのは、説明が要らない。大挙して飛来したB52の群れのそばには多くの赤瓦の民家。不発弾の爆発現場では工事車両まで吹き飛ばされ、何十本もの鉄骨がひしゃげている。上空のオスプレイの下には園庭で遊ぶ園児たち…。これらは一部なのだがさまざまに沖縄が戦争や基地と抱き合わせにされてきている事実について、説明文を読まないでも写真を順に見ていくだけで分かってしまうのが本書のすごいところだ。

 「戦後70年」「米軍基地の74%が沖縄に」。こうした数字が実際には何を意味するのか、暮らしの営みの中でこうまで脅かされ、被害を受けているという現実を写真が雄弁に物語っている。
 撮影角度やレンズの使い方など写真技術だけが理由ではない。その視点や思索の深さが決め手になっている。書名に「抗う」とある。その相手は米軍であり、日本政府でもある。安全保障という錦の御旗で沖縄に多くの犠牲を強いる理不尽さで平穏な生活を奪われ続け、本来「非武」を尊ぶ沖縄の民がやむなく抗(あらが)う怒りが書名にも読み取れる。
 大学紛争が激しかった時代の沖縄大学に入学、アルバイト収入で手に入れたカメラで紛争を写し始めた。やがて米軍の毒ガス兵器貯蔵やコザ騒動など学外の出来事にも目を向け始め、読売新聞、琉球新報と報道カメラマンの道に進んだ。多くの現場で撮影した写真の数々がそのまま沖縄の歴史の記録となり、40年余、撮影し続けてきた著者ならではの写真集になっている。
 その40年を超えて、自らは生きていなかった沖縄戦の時代の壕にも足を運んだ。遺骨収集や遺骨そのものを撮影し、亡き兵士や住民が無言で語る戦争の悲惨さで最後の章を閉じている。
 奇遇なのだが、本書の著者と拙稿の筆者は、同じ年の同じ月の同じ日に生まれている。互いに知らないまま報道の世界を歩んだが、ヤマトで記者生活を送った我が身からすれば、本書の読者はぜひ沖縄以外にも広がってほしいと思う。今の辺野古の問題の本質を分からせてくれる写真にあふれているからだ。(青柳光郎・ジャーナリスト)
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 やましろ・ひろあき 1949年生まれ、宮古島出身。報道カメラマン。読売新聞社を経て85年に琉球新報社入社。91年と92年に九州写真記者協会賞受賞。著書に「報道カメラマンが見た復帰25年」(琉球新報社)、「沖縄『集団自決』消せない傷痕」(高文研)など。

抗う島のシュプレヒコール――OKINAWAのフェンスから
山城 博明
岩波書店
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