『ゼロの未来』 30年たっても一貫している主題


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 近未来を舞台に、謎の数式「ゼロ」の解明に取り組む天才プログラマーを描いたテリー・ギリアムの新作だ。彼の近未来ものと言えば、やはり1985年の『未来世紀ブラジル』が思い出される。当時のアメリカ社会の即物的な価値観を風刺したブラック・コメディーで、国家によって管理、監視された社会が描かれていた。

 本作の主人公も常に監視されているが、支配者がコンピューター企業というところがいかにも今日的。ただし、監視社会を象徴するアイテムが、『~ブラジル』では街中に張りめぐらされたダクト管(筒抜けのメタファー)だったのに比べ、今回は隠しカメラと芸がなく、表現の後退という批判も出そう。
 だが、それには理由がある。ギリアムはストーリー以上に世界観や空気を大切にする監督だ。『~ブラジル』の世界観を担っていたのは、まさにダクト管だった。今回それに代わるものは、建物や部屋のドア、PCや隠しカメラのモニターといった内と外をつなげる(あるいは、隔てる)ものということになる。これらが一見猥雑に思える世界に均衡をもたらしているのだ。
 つまり両作には、人々を監視する道具を使って世界観を作り上げているという共通項がある。さらに言えば、ハイテクとアナログの混在、妄想と現実の対比という点でも通じ合う。そしてどちらの場合も、主人公を救うのは現実ではなく妄想の世界なのである。ギリアムの主題は、30年たっても一貫している。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:テリー・ギリアム
出演:クリストフ・ヴァルツ
5月16日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也