『駆込み女と駆出し男』 間違いなく原田作品の最高傑作


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 今年の日本映画を代表する1本である。江戸時代の女性が自分の意思で離婚できる唯一の手段だった縁切り寺への“駆け込み”がモチーフの人情時代劇で、“駆け出し”の戯作者でもある見習い医師の目を通して、当時の女性たちが抱える諸問題が描かれる。しかもそれらは、DVを筆頭に現代にも通じる部分が少なくない。

 まず脚本が素晴らしい。笑いあり涙あり、スリルとアクション、二重三重にどんでん返しが仕掛けられたミステリーの妙味もある。女性映画としても秀逸だ。次に演技。早口でまくしたて、劇中で対峙する相手ばかりか我々観客さえも煙に巻く主演の大泉洋の演技が、時代劇離れしたリズムを生んでいるが、過去の名作に精通した原田真人監督によって、それが時代劇の風情と違和感なく調和している。
 考えてみると、時代劇も、これだけコメディー要素の強い作品も初めての挑戦だったはず。それでも『わが母の記』で小津安二郎の世界観を再現したように、今回も市川崑や黒沢明の時代劇から絶妙に拝借しているし、そもそも原田作品が持つ乾いたタッチはコメディーととても相性がいい。そして、言葉にしてしまうと野暮になるので詳しくは書かないが、雨の滴が自然界に残す刻印に女性たちの生きざまを象徴させるなど、何より映画演出を知り尽くした監督なのである。傑作ぞろいの彼のフィルモグラフィーの中でも、間違いなく最高傑作だろう。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:原田真人
原案:井上ひさし
出演:大泉洋、戸田恵梨香、満島ひかり
5月16日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也