『記憶を刻む家づくり』 伝統を現代に活かす創意工夫


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『記憶を刻む家づくり おきなわの風土を楽しむ』照屋寛公著 ボーダーインク・1500円+税

 最初に本書「記憶を刻む家づくり」のタイトルを見て感銘した。まさに建築家として家づくりに情熱を傾けてきた著者の思いを端的に表現した書名に思えた。本書は著者がこれまで新聞などで連載したエッセーを補筆して本にまとめたもので、暖色の紙質にフルカラーの装丁も心地よい。

 建築関係でもない私が書評をするのをいぶかしがられる方もいると思う。著者は1級建築士でありながら、私も所属する沖縄民俗学会の会員でもあり、民俗学の視点からも沖縄における家づくりに大変関心をもっておられる。
 著者が育った石垣島のバックグラウンド、日本や海外での見聞が家づくりのヒントに反映されている。本書にはナー(庭)やヒンプン(衝立状の塀)、座のあり方など伝統性を現代住宅に活かした家づくりも紹介されている。また、家づくりでは時に遭遇する風水や家相などの世界観との整合性を考える事例もあり、とても興味深い。
 沖縄の伝統的民家は自然環境に適応しつつ、技術的革新も加わりながら歴史的に変化してきた。現在に伝えられる建造物は気候風土と歴史の象徴でもある。伝統的建造物は歴史的・文化的な所産であり、著者の言う「風景にとけ込む建築」「建築は街の記憶装置」という言葉は文化的遺産の保存継承を考える上で、とても心に響くフレーズである。
 本書を一読すると、さまざまなアイデアを凝らした家があることを知る。階段はバリアフリーに反する構造物といえるが、著者はあえて階段空間を楽しむ家づくりを提唱する点にも共感を覚える。家づくりには施主の意向や価値観とともに、立地条件や家族構成、ライフスタイルなどをもとに、それらを読み解いて、家づくりとして再構成するコンセプトがいかに大切であるかをあらためて認識させられる。
 ありきたりな表現であるが、家づくりにはさまざまな創意工夫と知恵が活(い)かされており、また活かすことができることを確信に変える本といえよう。一読をお勧めしたい。
 (萩尾俊章・沖縄民俗学会会員)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 てるや・かんこう 1957年、石垣島新川生まれ。明治大学工学部建築学科卒。96年、建築アトリエTreppen(トレッペン)開設。1級建築士。

記憶を刻む家づくり―おきなわの風土を楽しむ
照屋 寛公
ボーダーインク
売り上げランキング: 946,545