『軍国少年がみたやんばるの沖縄戦』 体験者こそが残せる証言


社会
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『軍国少年がみたやんばるの沖縄戦』宜保栄治郎著 榕樹書林・900円+税

 あの忌まわしい沖縄戦から今年は70年目に当たる。本書は、昭和9年(1934年)2月生まれの宜保少年が、昭和14年8月に名護町字屋部の区事務所(村屋)に設置された幼稚園に入園したころから、屋部小学校(昭和16年4月からは屋部国民学校)在学中に体験した、沖縄本島北部やんばるでのイクサ(沖縄戦)の記憶を書き記したものである。

 著者が本書を書くきっかけとなったのは、母や姉たちが絶えず米兵に追いかけられる夢を戦後長いこと見ていたからだという。それと、最愛の息子(長男)を亡くした母の泣き暮らす姿を見てきたからだという。
 沖縄戦を経験した人々は、戦場での辛(つら)い体験や家族の死を、戦後もトラウマ(心の傷)として引きずり、悪夢にうなされることがあるという。「沖縄戦と心の傷」の著者蟻塚亮二氏は、幼児期の戦争体験が晩年に発症する晩発性PTSDは、断片的でも言葉にすることによって、その記憶が収まるべきところに収まっていくと、すーっと消えていくという。
 体験した悲惨な記憶を文字にすることは、並大抵のことではない。筆者は大学で文学を学び、高校教諭を経て、琉球政府や県教育庁で芸能を担当し、その後文化課長、博物館長、沖縄大学特任教授などを歴任する中で、トラウマと闘いながら、中断を繰り返しつつ、やっとの思いでまとめ上げ、喉のつかえを下ろすことができたという。
 宜保少年は、国民学校3年生のときに担任から、将来の希望が馬車引きのような小さな希望では困るといわれ、将来は軍人になる決心をしたという。しかしながら、軍人となる前に5年生で沖縄戦に巻き込まれ、戦場となったやんばるを母らと逃げ惑った。この生まれ育った屋部というシマを中心に、家族がどのように戦争に巻き込まれていったかを、昨日今日のように記している。聞き書きでは表せない直に体験したものだけが知る貴重な証言が随所に記録されている。一読を勧めたい。
 (金城善・県地域史協議会元代表)
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 ぎぼ・えいじろう 1934年、名護市屋部生まれ。国学院大卒。高校教諭を経て71年からは文化行政に携わり、88年に県教育委員会文化課長、92年に県立博物館館長などを歴任。現在、名護市文化財調査委員・同市史編纂委員。