『だれも知らない建築のはなし』 日本を代表する建築家たちの軌跡


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 もともとは昨年の第14回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展・日本館で上映された映像作品。これが映画関係者の目に留まり、追加撮影と編集をして、73分の劇場版として再び誕生した。日本を代表する建築家・安藤忠雄、磯崎新、伊東豊雄の3人が海外から注目を浴びるようになった1970年代から現在までの軌跡を振り返りつつ、建築家がいかにバブル時代や経済危機といった社会情勢の影響をモロに受けながら変容してきたか?我々の未来の暮らしはどうあるべきか?までをも考えさせてくれる珠玉のドキュメンタリーとなった。

 監督は、建築家・石山修武を父に持ち、自身も大学の住居学科を卒業して磯崎新アトリエでの勤務経験もある石山友美。異色の経歴を持つ映画監督だが、その知識と経験あってこそ、個性あふれる建築家たちから本音を聞き出せたのであろうエピソードが満載だ。特に安藤はメディアへの登場回数も多くネタは尽きたのではないか?と思われたが、杞憂だった。
 82年に米国で開かれた国際会議「P3会議」。同席した海外建築家らが、磯崎に伴われて参加した新鋭の伊東や安藤らの当時の様子を振り返るのだが、人種差別と受け取られかねない偏見と辛辣な言葉にあぜんとするやら笑っちゃうやら。そのヒエラルキーからのし上がってきたのかと思うと、なおさら安藤たちへの尊敬の念が強まった。
 本作を見てから街へ繰り出せば、1つ1つの建物に建築家の夢やポリシーだけじゃなく、その裏にある人間の汗や愛憎、業なんかをも想像しちゃったりして、きっと景色が違って見えるはずだ。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督:石山友美
撮影:佛願広樹
出演:安藤忠雄、磯崎新、伊東豊雄、ピーター・アイゼンマン
5月23日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美