『沖縄 近・現代の考古学』経験に基づく「文化財保護史」


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『沖縄 近・現代の考古学』當眞嗣一著 琉球書房・3800円+税

 本書は著者がこれまでに執筆した数々の文章の中から、表題に基づくものを選び、1冊にまとめた研究書である。筆者は2012年12月に同様の手法で「琉球グスク研究」を刊行しており、本書はこれに続く。

 全体は8章からなり、「第1章考古学はいま」で本書を企画した意図、すなわち書名に「近・現代の考古学」と名付けた背景が記される。「第2章戦跡考古学」では、著者の考古学研究の大きな業績の一つである戦跡考古学について、提唱に至るまでの経緯と、自らの調査研究実践例、そして当該研究の今後に対する思いが述べられている。
 「第3章文化財保護」、「第4章地域と文化財」では、沖縄戦後の文化財保護行政とこれに関わった著者たちの情熱と活動、そしてさまざまな文化財保護活動に生かされた県民の関心の重要性が記される。また、2000年に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」がユネスコ世界文化遺産へ登録される際、沖縄県の担当者として関わった経験を踏まえて、世界遺産を含む将来の沖縄の文化財保護活動に対する提言が示されている。
 「第5章琉球の信仰遺跡」、「第6章道の考古学」、「第7章考古学から見る地域の歴史と文化」は、御嶽やグスクなどの信仰遺跡、古墓、古道、そしてこれらにまつわる記録や伝承についての調査研究報告である。筆者はこれらの存在が沖縄(ウチナー)のアイデンティティーのよりどころとなることを強く指摘し、その保護と活用への必要性を喚起する。
 「第8章私と博物館」は、自らが勤務した博物館での活動を振り返りながら、その役割の重要性が述べられる。その上で、さまざまな文化財の存在価値を広く知らしめ、現在に生かす博物館の思想を提案している。
 本書は長年、文化財保護行政に携わってきた著者の経験に基づく「沖縄文化財保護史」と言ってよい内容の一書である。これだけでも十分に一読に値するが、何よりもまずは本書に通底する著者の沖縄の歴史と文化に対する並々ならぬ熱情を感得していただきたいと思う。
(池田榮史・琉球大学教授)
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 とうま・しいち 1944年西原町生まれ。68年琉球大学法文学部史学科卒。68~74年、前原高校教諭、74~2005年まで県教育庁文化課や県立博物館で勤務。現在、沖縄考古学会会長。