『グッド・ストライプス』 時代の空気が立ち上る


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 今年32歳の女性監督・岨手由貴子の長編デビュー作だ。いわゆるシネフィル系の映画監督ではなさそう。作品を見る限り、映画史や映画技法に精通しているとは思えない。実験的な野心も感じられない。その代わり本作からは、登場人物たちのナチュラルなたたずまいや、“今”という時代の空気が立ち上っている。だから、脚本も岨手監督のオリジナルだが、決して脚本ありきの映画というわけではない。

 主人公は、自由気ままな文化系女子の緑と優柔不断なおぼっちゃまの真生というマンネリ気味のアラサー・カップル。お互い別れを考えていた矢先に緑の妊娠が発覚し、流れで結婚へと話が進んでいくのだが…。
 この新鋭監督の武器は、日常性である。例えば、彼氏(夫)の友達とは誰ともウマが合わないとか、自分の人生には特別な事件は起きないから悲劇に見舞われたってたかが知れてるという感覚だとか、結婚までの段取りや儀式の煩わしさはもちろん、結婚生活とは価値観の違う者同士が妥協し合って互いを受け入れていく作業だとか……既にアラフィフの筆者でさえも身につまされたり、共感を覚えるディテールのオンパレードなのだ。見ながら「そうそう」「あるよね」と何度もうなずいてしまった。
 岨手監督がこの先大成するかはともかく、こういう時代の空気を的確にすくい取った映画というのは、いつの時代にも必要だろう。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:岨手由貴子
出演:菊池亜希子、中島歩
5月30日(土)から全国順次公開
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

(C)2015「グッド・ストライプス」製作委員会
外山真也