『シーサーと脳梗塞』 沖縄移住者の理想的姿


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『シーサーと脳梗塞』松下武著 ボーダーインク・1500円+税

シーサーと脳梗塞

 「シーサーが脳梗塞?」と思って読み始めるとすぐに理解できた。著者は静岡県生まれ。団塊の世代。大手外資系会社に就職、沖縄勤務2回。希望して早期退職、沖縄に移り住む。通算18年の沖縄生活。多趣味な人で、ライフワークとしてシーサーの写真を撮り続け、その数4千体になるという。

 シーサー写真展も開催している。さらに三線では新人賞受賞。伝統工芸、伝統芸能など好奇心と行動半径は実に旺盛で広い。その間、45歳で脳梗塞を患い、早期退職後の60歳で再発。
 本のタイトルはそこからきている。サブタイトルに「美ら島で妻と歩む」とあり、脳梗塞のリハビリに懸命に励む夫と、側(そば)で支える妻のほのぼのとした夫婦愛の日常が書きつづられている。著者はほとんどもとの健康体に戻っている。帯文にエッセイストのゆたかはじめさんが「川柳的エッセイ」と書いているように面白い、読みやすい。テレビドラマにしたらウケそう。
 これは脳梗塞でまひの残る中、リハビリを兼ねてパソコンメールで知人友人に宛てた「しーぶん(おまけの意味)・こーなー」を基にしている。おまけの人生と開き直って、杖(つえ)歩行で町、村を歩きながら書き続けたのが本になった。
 「もしかして三回目の梗塞」は心配しながら読む。「ヤールー(ヤモリ)」「ゴキブリ」など、県外から来た人には最初の驚きだろう。身動きしなかったヤモリが夕方にはいない。さては「ヤモリの雲隠れ?」「やーるー」。笑ってしまう。
 本土から沖縄に移住する人が増えているが、著者と妻の沖縄生活は沖縄移住者の理想的な姿だと思う。沖縄の社会と人に深く溶け込んでいる。関心はシーサーや三線などだけではない。
 普天間基地の県内移設反対県民大会、オスプレイ配備反対県庁包囲行動などにも夫婦で参加する。どこへ行くにもバス利用。沖縄は、健康回復のためにも温暖な気候の島の空気、島の人々との交流がリハビリに向いているのだろう。この本を読むとそのことがよく分かる。(野里洋・ジャーナリスト)
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 まつした・たけし 1949年静岡県生まれ。金沢大学卒。73年、日本アイ・ビー・エム入社。77年と2002年に沖縄赴任。05年、同社退社。