『そう書いてあった』益田ミリ著


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よるべない夜に
 この本もだった。
 元来さびしんぼうで、「またね」の挨拶が嫌いだ。友達と会っても別れが惜しくてつい2度目のお茶をしたり、探してもいないのに百貨店の化粧品売り場をうろうろしたりする。本だってそう。あまりに気に入った1冊が見つかると、読み終えるのが嫌で嫌で、途中で勝手に「ふりだしに戻る」をしてしまう。冒頭からまた、読み直すのだ。

 漫画家、イラストレーター、エッセイストとあらゆる肩書を持つ益田ミリ。漫画『すーちゃん』が話題を呼び、柴咲コウ主演で映画化もされた。いまさら紹介するのもヤボというくらい売れっ子だ。そんな彼女の新刊は、新聞連載の『オトナになった女子たちへ』に加筆・修正を加え、10本の書き下ろしを収録したエッセー集である。
 上京したお母さんと、とらやのカフェでお茶をした日のこと。スニーカー界のロールスロイスを買ったこと。桃のパフェを食べたこと。大人になってから習いはじめたピアノの最後のレッスンの日、泣きそうになって逃げるように教室を後にしたこと……。
 描かれているのはどれも、ささやかな日常にぽつぽつと生まれる感情のあわい。それがなぜだかとても、安心する。家族とも恋人とも、誰とだってずっと一緒にいることなんてできないのなら、せめてこの本だけは読み終えたくはない。もう少しだけ、あと少しだけ。そう思いながら大事に読んだ。
 最後のページを読み終え、顔を上げた時、わたしはどんな顔をしていただろうか。読む前よりも少しだけ、優しい顔になっていたような気がする。見てないからわからないけどそう思うのは、小さな声で、そっとエールをもらった気がしたからだ。
 (ミシマ社 1500円+税)=アリー・マントワネット
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アリー・マントワネットのプロフィル
 アリー・マントワネット ライターとして細々と稼働中。ファッション、アイドル、恋愛観など、女性にまつわる話題に興味あり。尊敬する人物は清水ミチコ。趣味はダイエット、特技はリバウンド。
(共同通信)

そう書いてあった
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