『エレファント・ソング』 ドランの熱演で見応えある心理劇


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 監督作『Mommy/マミー』で昨年のカンヌ国際映画祭の審査員特別賞を受賞したと思ったら、本年度は史上最年少の26歳で同映画祭の審査員を務めた時代の寵児グザヴィエ・ドラン。本作は『Mommy/マミー』撮影後に、俳優に専念してかかわった作品である。

 でも彼が醸し出す勢いなり、自信というものは、芝居で自分とは違う人物を演じていてもあふれだしちゃうもの。どうやら監督は撮影前、ドランに「現場に監督は1人しかいない」とクギをさしたそうだが、完全にドランが本作をコントロールしている。三池崇史監督しかり塚本晋也監督しかり、演技のうまい監督は多いが、やはり鬼才ドラン、恐るべし。
 物語は、1人の精神科医が失踪したところから始まる。院長は、最後に精神科医と一緒にいたとされるマイケルを呼び出し、事情聴取する。だが問題児のマイケルは、院長を翻弄し、なかなか肝心なことを話さない。いら立ちつつも、真摯に向き合おうとする院長を前に、マイケルも徐々に軟化。やがて失踪の核心に触れる、ある事実が明かされていく。原作が戯曲で、限られた空間で展開される心理劇である。
 ドランの熱演に引っ張られ、見応えはある。ただ、ドランが監督だったらもっと緊迫感ある映像になって、もっと面白くなったはず!と、思わずにはいられないのであった。★★★★☆(中山治美)
 【データ】
監督:シャルル・ビナメ
原作・脚本:ニコラス・ビヨン
出演:グザヴィエ・ドラン、ブルース・グリーンウッド
6月6日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美