『君の香り』 中韓で新たな恋愛物語を模索


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 多くの観客が、韓流スターのパク・シフ目当てだと思う。実際物語も、ファンがうっとりしそうなラブストーリー。突然、姿を消した恋人を追って中国・上海にやってきたパクだが財布を落として大弱り。偶然出会って、おまけにハプニングでけがをさせてしまった中国美女チェン・ランを介護するという条件で、彼女のところで居候し、そこから恋に発展する。正直、ツメも甘いし、強引な展開だ。

 しかし見るべきは、そこだけではない。2014年、韓国と中国は中韓映画合作協定を調印し、中国では国産映画とみなされることになった。これにより中韓合作映画が大量生産中。本作もその1本である。
 起用されるのは両国のトップスター。当然、言葉や文化の違いがあり、例えば日本が同様の合作映画を作るとなると、そこに脚本がとらわれがちとなる。だが本作は、最初こそ通訳となる友人が登場するが、あとはお互い英語で会話しだすので難なくクリア。先日、海外映画祭で見た『赤道(ヘリオス)』は、中韓の警察が自動翻訳してくれる器具を耳に装着し、互いが母国語で話してもOKという設定を生み出していた。障害を乗り切ってしまうパワーとアイデアが、ここにはある。
 本作も、国籍の違いなどより、互いの心の中に焦点を絞って男女の機微を描いているところが実に良い。資本が拡大するなかで、新たな恋愛物語の形を模索しはじめた両国。いまだ女子中高生頼りの日本は、うかうかしてられませんぞ。★★★☆☆(中山治美)

 【データ】
監督:ジェシ・ツァン・ツイシャン
原作:ワン・ビン
出演:パク・シフ、チェン・ラン
6月6日(土)から全国順次公開
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

(C)2014 FLYING VISION FILM&TV MEDIA ADVERTISING(BEIJING)CO.,LTD.All Rights Reserved
中山治美