『奇跡のひと マリーとマルグリット』 障害者の体感を映像で表現


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 このタイトル、てっきりヘレン・ケラーの話かと思ってた。勘違いして見に来る人を狙っての戦略なのだと思うが、原題は「MARIE HEURTIN(マリー・ウルタン)」。19世紀のフランスに実在した人で、生まれつき目と耳が不自由で言葉を知らなかった。両親も手をこまねいているばかりでコントロールできず、野性児のように育てられたが、フランス・ポアティエ市にあるラルネイ聖母学院に預けられ、修道女マルグリットから社会性と言葉を学んだという。

 本作は、そんなマリーとマルグリットの出会いと、両者の心が真に通じ合うまでの格闘を描いたものだ。ヘレン・ケラー的感動作をかなり敬遠していた筆者だったが、思わぬ拾いもの。手話で言葉を学ぶという喜びを知ったマリーが、無償の愛を心で知るラストシーンには図らずも涙がポロリ。
 何が素晴らしいって、日本だったら間違いなく感動的な場面で大仰な音楽を流しがちだが、そんな分かりやすい演出を一切しない。太陽の光、水の冷たさ、熟したトマトの丸み、そして温かいスープが体全体をほっこりさせてくれる感覚などを肌で体感していく過程が、映像で表現されていく。マリーを演じるのは、実際に聴覚に障害がある新人のアリアーナ・リヴォアール。全身全霊でマリーを演じる彼女の熱演も胸を打つ。
 実話の力に引っ張られて、堂々と正統派で攻めた製作陣の自信のほどがうかがえる。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:ジャンピエール・アメリス
撮影:アン・スリオ
出演:イザベル・カレ、アリアーナ・リヴォアール
6月6日(土)から全国順次公開
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

(C)2014-Escazal Films/France 3 Cinema-Rhone-Alpes Cinema
中山治美