日台漁業協定・県内漁業者ルポ 紛争避け操業回避も


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 夜明け前の早朝5時、那覇市港町の泊魚市場にはセリ人の笛の音と買い受け人の活気の良い声が響き渡り、青やピンク、緑など色鮮やかな魚が並ぶ。中でも買い受け人の注目は「海のダイヤ」とも呼ばれるクロマグロ(本マグロ)だ。

2日、同市場にはクロマグロが10匹、計約1・8トンが水揚げされた。マグロ漁は5~7月にかけて最盛期を迎え、県内の漁師は大忙しだ。3月には台湾と締結した日台漁業取り決め(協定)に基づき、今期のクロマグロ漁期の操業ルールが策定された。県内のマグロはえ縄漁に携わる漁業者の現状を取材した。

◆水揚げ豊富な漁場

 沖縄近海にはマグロが捕れる豊富な漁場がある。沖縄で捕れる生鮮マグロ類(クロマグロ、キハダマグロ、ビンチョウマグロなど)は、毎年全国でも5本の指に入る水揚げ高を誇っている。
 2日未明、泊魚市場には100人を超える買い受け人が集まった。マグロ漁が最盛期を迎える6月、同市場には毎日10~30トン前後のマグロ類が水揚げされる。2014年に泊魚市場で水揚げされたクロマグロは約73トン。品質の良いマグロは東京など県外市場に直送されるため、実際の漁獲量はその2倍ともいわれる。
 県漁業協同組合連合会(県漁連)の松川直樹市場課長は「クロマグロ以外のキハダマグロやビンチョウマグロなども多く水揚げされる。この時期の沖縄は脂が乗った上質なマグロが安くで食べられる」とマグロ産地沖縄を売り込む。

◆適用水域の現状

 この日は八重山近海で捕れた360キロ級のクロマグロが競りに並んだ。八重山近海はクロマグロの好漁場といわれる。八重山漁協の漁師の多くが漁に繰り出す「八重山北方三角水域」は今期から、昼は日本漁船、夜は台湾漁船という昼夜交代操業ルールを適用している。同漁協の上原亀一組合長は「今のところ大きなトラブルはないが、台湾漁船とのはえ縄の交差も何隻か報告が来ている」と話す。
 同水域ではえ縄漁を行う與儀正さんは「操業時間がきちんと守られていない。夕方から、はえ縄を入れている船もある。一部の台湾漁船かもしれないが、きちんとルールを守らなければ意味がない」と怒りをあらわにする。
 台湾側は午前0時から同7時までの操業で、沖縄の漁船が投げ縄をする明け方までにはえ縄を揚げなければならない。與儀さんは「台湾のはえ縄は沖縄の物よりも太く、絡まってしまうと縄が駄目になってもう使えない。台湾漁船とトラブルになるくらいなら、その水域で漁はしない」と嘆く。
 久米島西方の「特別協力水域」でも、水域の北側が漁船間隔4カイリ(約7・4キロ)、南側が漁船間隔1カイリ(約1・85キロ)という操業ルールが日台間で適用されている。
 しかし、久米島漁協の渡名喜盛二組合長は「水域の南側は1カイリ間隔と距離が近い。台湾漁船とのトラブルは避けたいので、組合の漁業者には『南側の使用を控えてくれ』と伝えている」と明かした。

◆減った漁獲量

 県漁連が14年に発表した日台漁業協定適用水域の操業実態によると、県内5漁協(八重山、久米島、那覇地区など)に所属する延べ52隻が4~7月に同水域で操業していた。これに対し、琉球新報社が台湾側に問い合わせたところ、適用水域内で操業する台湾のはえ縄漁船数は年間約300隻に上るという。
 八重山の與儀さんは「沖縄の数倍の漁船が近海で漁をしている。マグロは減る一方で、われわれの漁獲量も減っていくだろう。ことしは去年の半分しかまだ捕れていない」とマグロの資源量について懸念を示す。
 世界的なマグロ需要の高まりに伴い、乱獲によるクロマグロの減少が大きな課題となっている。マグロ類の資源管理に取り組む中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)は昨年、クロマグロの保護に向けて30キロ未満の未成魚の捕獲量を15年から半減させることで合意している。
 これまで県内の漁業者は、その年の水揚げ量などから漁業者同士で相談して近海の資源保全に取り組んできたという。與儀さんは「台湾漁船が入って来てこれまで自分たちで守ってきたクロマグロをどんどん捕られたら、こちらも捕るしかなくなる」と資源管理に逆行する事態を危ぶんだ。
(上江洲真梨子)

今が旬のマグロを競り落とす買い受け人ら=2日、那覇市港町の泊魚市場
日台漁業取り決めの合意内容(2015年4~7月期)