『ローリング』 古典的なたたずまいと実験精神


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 劇場用長編劇映画としては『乱暴と待機』(2010年)以来となる冨永昌敬の新作だ。力量からすればもっとコンスタントに作品を発表できる才能なのだが、商業映画を撮るには作家性が際立ちすぎているということだろうか?

 舞台は茨城県水戸市。おしぼり業者で働く貫一と、盗撮事件を起こして職を追われた貫一の高校時代の担任教師、彼が東京から連れてきたキャバクラ嬢による三角関係を軸にしたサスペンスフルなコメディーだ。キーワードは「おしぼり」。
 おしぼりを、タイトルも含めた作品の世界観を構築するメタファーとして活用する発想やセンスは、映画の技巧にも特性にも精通した冨永監督の真骨頂だろう。今回は商業デビュー作『パビリオン山椒魚』(06年)以来のオリジナル脚本。例えば移動撮影や引き画の緩急、計算された情報の出し入れが生み出す古典的な映画のたたずまいと、作為的なモノローグの多用をはじめとする実験精神の絶妙なバランスは、自主映画時代に戻ったかのよう。
 でも、だからこそ、「新しい日本映画のトビラを開く」というキャッチコピーには違和感を覚える。10年前と同じことをやっていたのでは、先鋭的とは言えまい。実験精神は、維持しようとした時点で古びる。本作の魅力は新しさではなく、変わらぬ唯一無二の作家性なのだ。こちらが単に、天才監督の新たなチャレンジに気づけなかっただけかもしれないが。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:冨永昌敬
出演:三浦貴大、柳英里紗、川瀬陽太
6月13日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也