『約束の地』 幻想的な世界観と寓意を支える圧巻の映像


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 アルゼンチンの鬼才リサンドロ・アロンソが日本初登場。本作は、昨年のカンヌ映画祭で国際批評家連盟賞に輝いている。19世紀のアルゼンチンの辺境地帯で政府軍による先住民の掃討作戦に参加しているデンマーク人技師が、消えた15歳の娘を追う話だ。戦争映画ではなくロードムービーなのだが、物語は大して重要ではない。それよりも、頻出する水や動物、兵隊の人形などのイメージが象徴性をまとうことで生まれる、幻想的な世界観と寓意こそが本作の魅力だろう。

 そして、それを支えているのが、アキ・カウリスマキ作品の撮影で知られるティモ・サルミネンが35ミリフィルムで撮った圧巻の映像である。アロンソ監督は一貫して“自然と人間”をテーマに作品を発表しているそうで、今回もパタゴニアの美しい自然の中でオールロケを敢行している。
 にもかかわらず、画面サイズは四隅の丸い変形スタンダードなのである。ずっと広大な自然が背景なのにどうしてスタンダード?という疑問は最後まで拭えなかった。恐らく本作が目指しているのは、映画的な探究ではなく、むしろ文学的、あるいは哲学的な探究なのではないだろうか。であれば、アロンソ監督がタルコフスキーに比されているという評価も納得できる。もちろん、これ1作では判断できないので、過去作の公開も切に待たれる。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:リサンドロ・アロンソ
製作・出演・音楽:ヴィゴ・モーテンセン
6月13日(土)から全国順次公開
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

外山真也