『海街diary』 丹念な描写と緻密な計算で描く家族の年輪


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 カンヌ国際映画祭は無冠に終わったが、恐らく本作が古典的すぎたためだろう。審査員長が尖った作風のコーエン兄弟だったこともマイナスに働いたはず。むしろ審査員賞を受賞した是枝裕和監督の前作『そして父になる』以上の傑作だと思う。吉田秋生の少女漫画が原作。鎌倉に暮らす3姉妹が、15年前に家を出た父親の死を知って腹違いの妹を引き取り、本当の家族になるまでが描かれる。

 本作のテーマは“時間”。劇中で実際に流れる時間は約1年間だが、映画からは何世代にもわたって紡がれている家族の年輪が感じられるのだ。しかも、フラッシュバックを一切用いず、編集による時制操作もないため、完全に時系列通りに物語が進むにもかかわらずである。それを可能にしているのは、日常や習慣、記憶などの丹念な描写に加え、例えば父親を遺影ですら登場させないことで、役者が演じていると分かっていても「お父さんはどんな顔だろう?」と想像させるような緻密な計算によるもの。まさに「映画は何を見せないかで決まる」を知り尽くした演出である。
 そして、女優それぞれの個性を生かした生々しくも端正な画面からは、潮の匂いが感じられ、四季とりわけ桜の美しさに息をのむ。日本映画の古き良きホームドラマを継承した本作は、同時になぜ是枝監督が国際的に評価されているのかも教えてくれる。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:是枝裕和
出演:綾瀬はるか、長沢まさみ、夏帆、広瀬すず
6月13日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也