『グローリー/明日への行進』 差別の残酷さに目を覆う


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 アフリカ系のバラク・オバマ氏が米大統領になって以来、世界的に人種差別問題を扱った映画が増えた。『大統領の執事の涙』しかり、『マンデラ 自由への長い道』しかり、彼らが選挙権を勝ち取って市民と認められるまで、いかに多くの涙と血を流してきたかを思い知らされる。そのあとには必ず、なのに日本の投票率の低さって…というボヤキが出てしまうのだが。

 本作はキング牧師ことマーティン・ルーサー・キング・Jr.が50年前の1965年に、黒人の選挙権を求めて米国南部アラバマ州のセルマを出発、約2万5000人を先導して大行進をした実話を映画化したものだ。マルコムXが過激な黒人解放運動をしていた当時、キング牧師は対照的に非暴力を掲げて行動を起こした。
 にもかかわらず容赦ない暴力を使っての弾圧、白人社会からの差別の残酷さは目を覆いたくなる。だがその一方で行進には、キング牧師の考えに賛同した白人も多数いたという。映画を見ながら自問した。明らかな差別を受けている人を目の前で見た時に、自分は、命を張ってでも彼らに手を差し伸べる勇気があるか?と。この映画、自分の度量というものを考えさせてくれますわ。
 ただキング牧師の人間性なり魅力があまり伝わって来ず。キャストがいささか弱いのがちょっと残念。★★★★☆中山治美)

 【データ】
監督・製作総指揮:エヴァ・デュヴァネイ
脚本:ポール・ウェブ
出演:デヴィッド・オイェロウォ、トム・ウィルキンソン
6月19日(金)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美