『島嶼経済とコモンズ』 時空を超えた文明論


社会
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『島嶼経済とコモンズ』松島泰勝編著 晃洋書房・3500円+税

 人類の生存の視点から、島嶼社会の現在の位置を把握し、その位相と方向を示す科学的で実証研究を踏まえたノーマティブ(規範的)な分析である。現実のしがらみを解き、科学的なゾルレン(当為)の視点から捉え直す意義があり、閉塞状態の沖縄の現状を打破する、示唆に富んだ好書である。

 内容は島嶼経済、沖縄の米軍基地と経済、沖縄の自治運動、グアムの基地経済、マーシャル群島におけるコモンズなど、多岐にわたっているが、コモンズという概念による政治・経済論であり時空を超えた文明論でもある。コモンズとは「自然資源の共同管理制度、および共同管理の対象である資源そのもの」である。つまり、次元が国有、私有共有などに関係なく、土地、海などの資源の管理が行われることをコモンズという(松島泰勝)。
 所有に基づく市場原理の中で事象・現象を捉えると、人間の存在を根拠にした原点が損なわれ、その帰結として、自然が破壊され、ホメオスタシス(生体恒常性)が乱れ、人類の存在までも脅かすというしっぺ返しを喰(く)らっているのである。市場の失敗である。
 コモンズの視点から見ると、自己決定や持続的発展において現在のシステムの陥穽(かんせい)が透けて見える。復帰前の沖縄では「字」がコミュニティーの単位であった。字有地がありイノーがあり杣山(そまやま)がありコモンズの世界があった。字民がみんなで決め、自然の付与以上の関与は許されなかった。それは崩壊し、数の論理がまかり通る理不尽を生み出している。マーシャル諸島では私でも公でもない「共」という概念のコモンズ的世界があるという。
 「国家など無くても人間は十分に生きていける」(中村尚司)という。しかし、近代科学・文明を享受した現代人は「パパラキの世界」への単純なアナクロニズムの回帰は望まないであろう。何を捨て、何を得るのか選択が迫られている。技術、文明を全て否定し、過去に回帰するのではなく、丁寧、詳細にその是非を整理、検討して文明を昇華させるべきであろう。それは常に時代に与えられた課題である。ノーマティブからプラクティカル(現実への対応)への展開が求められている。(富川盛武・沖縄国際大教授)
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 まつしま・やすかつ 1963年、石垣島生まれ。那覇高校、早稲田大学卒業後、同大大学院博士課程単位取得。経済学博士。現在、龍谷大学経済学部教授。琉球民族独立総合研究学会共同代表。

島嶼経済とコモンズ (龍谷大学社会科学研究所叢書)
松島 泰勝
晃洋書房
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