『私のたしなみ100』大草直子著


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「たしなみ」はどれだけあればいいのか?
 「たしなみ」という言葉を、本書で久しぶりに目にした。
 大げさな言い方かもしれないが、この国の私たちの日々は全体的に、「たしなみ」をどのように、どれだけ崩すのかという方に向かっている。それは必ずしも悪いことばかりではないけれど、「たしなみ」とともに崩れているものも確かにあると思う。

 ファッションスタイリストである著者による「たしなみ」の本なので、多くは美しくあるための装い方、たたずまいに関するアドバイスである。
 <カシミアのニットにはシルクのキャミソールを><手袋にお金をかける><見ると、髪型がいつも違う><レースのアイテムを身につける>などなど、女性ならではの「たしなみ」は確かに美しさを底上げしてくれるだろう。男の私が勝手にわが事に引きつけて、ヒントを頂けることもたくさんある。
 <格好はつけるけど、嘘はつかない><「年齢相応」を怖がらない><家族にこそ最大の努力をする>などの性別の垣根を越えた心の領域へのアドバイスはもちろんより直接的に響く。これができたら、もっといい人間になれそうだ。どうせ生きていくなら、こうありたいものだと素直にうなずく。
 しかし同時に思うのは、100の「たしなみ」を通して眺めてみても、ではどのような女性・人間を目指すべきなのか、イメージを固定できないということだ。いやむしろ、固定された何者かになってはいけないというメッセージをはらんでいるようですらある。
 本書に収められているのは100の「たしなみ」なわけだが、「たしなみ」は時とともに変化していくし、そもそもどれだけあれば十分というものでもない。だからといって諦めて投げだしたり、安易に崩したりすることに走らずに、「たしなみ」の海の中を溺れるようにして人間のステージを上げていけという、厳しくも誠実な本なのだと思う。
 (幻冬舎 1300円+税)=日野淳
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日野淳のプロフィル
 ひの・あつし 1976年生まれ。出版社で15年間、小説、音楽、ファッションなどの書籍・雑誌の編集に携わり、フリーランスに。今、読む必要があると大きな声で言える本だけを紹介していきたい。
(共同通信)

私のたしなみ100
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