『雪の轍(わだち)』


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季節=時間の推移を見事に捉えた映像の力
 昨年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞したトルコ映画。ゴダールの3D作品『さらば、愛の言葉よ』やグザヴィエ・ドランの『Mommy/マミー』(ともに審査員賞)を抑えての栄誉である。果たしてそこまでの傑作か?はさておき、既に国際的には名を馳せていたトルコの巨匠ヌリ・ビルゲ・ジェイランの、この受賞による長編7作目にしての日本初公開を祝福したい。

 チェーホフの短編に着想を得た物語で、舞台は世界遺産の地カッパドキア。主人公は、火山による自然の岩窟を利用して建てられた小さなホテルのオーナー。資産家の彼と若く美しい妻、離婚して出戻った妹、さらには隣人たちが織り成す上映時間3時間16分の会話劇だ。
 何と言っても、カッパドキアの独特の景観と、秋から冬へと至る季節=時間の推移を見事に捉えた映像の力に息をのむ。けれども、会話中心の展開を最後まで飽きさせずに見せるのは、風景の力によるものだけではない。映画史の先人たちが培ってきた「会話という絵にならない被写体を映画的に表現する工夫」を、この監督がしっかりと受け継いでいることが大きい。
 加えて、大した事件の起きない物語をドラマチックに感じさせるような通俗性を併せ持っていることも、本作の成功の要因だろう。これを機に、過去作の日本公開もぜひ実現させてほしい。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:ハルク・ビルギネル、メリサ・ソゼン
6月27日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也