『きみはいい子』


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群像劇で呉美保監督の本領発揮
 『そこのみにて光輝く』で昨年度の映画界を席巻した呉美保監督。次作となる今回は、これまで一貫して一つの家族にじっくりとカメラを向けてきた彼女にとって初となる群像劇で、一つの町を舞台に、新米の小学校教師、娘を虐待する母親、認知症の兆しにおびえる独居老人らの人生を少しずつ交錯させながら、心の再生や成長を描いている。

 例えば、ママ友たちの公園での井戸端会議の場面に顕著だが、大人数の中で個々の立場や性格を無駄なく的確に提示する手腕に驚かされる。幼い子供たちの演技もナチュラルだ。恐らく月永雄太の撮影の功績も大きいだろうが、虐待シーンもリアルで嘘っぽさがない。だからこそ、後半の教室のシーンで唯一使われているドキュメンタリー・タッチの演出が他から浮くことなく、むしろクライマックスらしいビビッドな緊張感をつくり出せているのだろう。
 だが、そもそも呉美保の演出の特徴は視点の多面性にあるのだから、群像劇ははなから向いていたはず。しかも、それはカメラの視点にも言えることで、時には床に座り込んだり、腹ばいになったりする子供たちの目線が生み出す空間の多面性も本作の魅力となっている。呉美保監督の本領は、『そこのみにて光輝く』ではなく本作でこそ発揮されていると言えよう。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督:呉美保
原作:中脇初枝
出演:高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、高橋和也、喜多道枝、富田靖子
6月27日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也