『ラブ&ピース』


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シンプルだけど普遍的なメッセージが生んだ傑作
 『新宿スワン』が大ヒット中の鬼才・園子温の新作だ。脚本も彼のオリジナルで、端的に言ってしまうと、平凡な会社員がある出会いによってロックスターへと上り詰めるというもの。ただし、サクセスストーリーとは程遠いが。

 同じく不遇時代に書いた脚本に基づく2013年の『地獄でなぜ悪い』とは、共通項が多い。主演が長谷川博己、ジャンル映画のフォーマットを利用、歌が重要な役割を担う、才能が認められない鬱屈が書かせたとしか思えないストーリー展開など、姉妹編と呼びたくなるほど。
 けれども、『地獄~』が芸術家としての気概をバックボーンにした“若い”作品だったのに対し、今回は自分の弱さやダメな部分と正面から向き合っているように思える。だからこそ、『バットマン リターンズ』が劇中でリスペクトされているのだろう。バットマン映画史上の最高傑作であるばかりか、ティム・バートン監督の最高傑作でもあるこの映画は、自らの心の闇と向き合うためにヒーローにならざるを得なかった男を描いた、ヒーロー映画にあるまじきネガティブな内容だったから。
 本作もそうで、“愛と平和(かけら)”を声高に叫びながらも、本当に監督の愛情が向けられているのは、ダメ人間に対してだ。ダメな自分を受け入れよう。このシンプルだけど普遍的なメッセージが、園子温にも自身の最高傑作を作らせた。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:園子温
出演:長谷川博己、麻生久美子、西田敏行
6月27日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也