『石になった少女』 戦争体験伝承の課題描く


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『石になった少女』大城将保著 高文研・1400円+税

 戦争の物語を読むたびに、(それが児童書であればなおさらに)そうした読み物を必要とする緊迫した今、を考える。日本の敗戦後70年目に向けられる東アジアの懐疑の眼。これに「昔のことをいつまでグズグズうんぬん」などとの暴言によってしか対せぬ若い日本の彼ら彼女らの醜さ――だから戦争体験は伝えられねばならないのだ。

 本書は「伝える人」を自覚する作者によって書かれた。沖縄の戦争孤児院を舞台に、作者の分身ともいえる少年の沖縄地上戦、ある少女の沖縄地上戦、そして少年の少女との別れから70年目の帰郷と、三部に構成される。
 物語は親を失ったふたりの癒やされぬ魂の、互いは理解者であるかに展開する。が、少年は少女の理解者とはなりえない。それが少女の少年に、「ウソツキ! お母ァは帰ってくる!」と、たたきつけた一言に表される。
 少年は父母の餓死を目撃しているが、少女は生き別れ、死を確認していないのだ。一つとして同じ戦争体験はない。
 敗戦後70年の今年。老いた少年はヤマトから島に戻り少女を探す。少女は母を待ち続けて石に化した、との伝説になっていた。
 石に作者は「風化」の意味をこめたかに思われる。ある存在の伝説化は、事実を変形し、忘れられていく過程なのだ。
 作者は物語を、沖縄地上戦を俯瞰(ふかん)しつつ進行させるが、風化をさせぬにはその全的知識が不可欠にほかならないからだろう。伝説に生命を吹きこむのは情緒よりもなお知識だ――ここに本書の意図がこめられている。
 果たして戦争体験のない者らは戦争体験者の体験を、次に伝える人として自覚し、戦争体験者を聞き、尋ねてそれを知識とし、次に伝えてきたろうか。果たして伝えられてきたろうか。本文の下段には必要な用語が多数、丁寧に解説されている。解説があることで、知識の欠ける読者は本書を完全に理解しえる。もしも用語解説しつつ本文を進めたとすれば、おそらく読者はわずらわしさについていけぬだろう。作者が本書に挑戦したことは、戦争体験の伝承の難しさだといえなくはない。
(下嶋哲朗・ノンフィクション作家)
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 おおしろ・まさやす 1939年、玉城村(現南城市)生まれ。県庁で県史の編さんに携わった後、県立博物館長などを務める。映画「GAMA―月桃の花」のシナリオを手掛けた。現在、県芸術文化振興協会理事長、新沖縄県史編集委員。

石になった少女
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