『ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム』


社会
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古き良き無声映画時代の伝統を継承
 ショーン、大出世だ。1995年に製作された劇場版『ウォレスとグルミット 危機一髪!』の脇役に過ぎなかったひつじが、2007年にテレビシリーズ化され、日本でもNHK・Eテレで放送中。そしてついに劇場版で主役とは。犬のグルミット好きとしては彼の影が薄くなっていることは複雑だが、今年はひつじ年だし、よしとしよう。

 ただ、TVシリーズを見ている人ならもうお分かり。いたずら好きのひつじがまた悪さして、牧場主がひどい目に遭うような大波乱を巻き起こすという、いつものパターン。今回は規模が大きく、ショーン一行が都会で大暴れ。それでも次から次へと予測不能な展開を用意してくるからさすが。そして都会でショーンたちを追いかけ回すのも、野良猫やら野良犬たちの天敵である動物収容センターの職員というのが今どきで、さりげなく動物愛護の問題も盛り込んでいる。だって本作はあくまでひつじが主役。徹底的に動物目線で描かれているところに、作者たちのキャラクターへの愛情を感じる。
 何より本作が素晴らしいのは、セリフがなくバスター・キートンやチャプリンが活躍した古き良き無声映画時代の伝統を継承していること。普遍的な手法で、万国共通・老若男女に通じる笑いを届ける。精巧なクレイ・アニメーションしかり、本作は高度な技術の塊なのだ。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督・脚本:マーク・バートン、リチャード・スターザック
エグゼクティブ・プロデューサー:ニック・パーク、ピーター・ロードほか
音楽:イラン・エシュケリ
7月4日(土)から全国公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美