『ルック・オブ・サイレンス』


社会
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大量虐殺のメカニズムをあぶり出す
 1960年代にインドネシアで行われた大量虐殺事件を、加害者の証言によって白日の下にさらした『アクト・オブ・キリング』の続編。とはいえ撮影は本作の方が先。共産主義者と疑われて無残にも殺された兄。なぜ兄は殺され、そして自分の家は今も村で肩身の狭い思いをしながら暮らし、加害者は権力者となって大手を振って生きているのか。そうした疑問を抱えた弟のアディが、加害者に直接会って話を聞くというドキュメンタリーだ。

 前作の『アクト・オブ・キリング』でも加害者が意気揚々と殺害場面を再現する様子を見せられ、混乱の極みに陥った観客も多かっただろう。だが今回も胸のモヤモヤはそれ以上。「命令に従っただけ」とか「見張りをしていただけ」とか加害者の自己保身発言の連発に失笑すらしてしまう。一番辛いであろうアディが、努めて冷静に話を聞く姿は頭が下がる思いだ。
 そんなアディの忍耐強き対応によって、本作は見事に大量虐殺のメカニズムをあぶり出していく。誰かの思惑によって仮想敵を生み出し、大衆を扇動して武器を持って相手を倒すことが正義だと信じ込ませる。まぁ、脈々と続く独裁者の常套手段だが。アディが、監督が、そして、今なお報復を恐れてエンドクレジットに名前を載せることが出来なかった「匿名」のスタッフが、命懸けで鳴らした警鐘を、今こそ肝に銘じるべし。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
共同監督:匿名
出演:アディ・ルクン、ロハニ
7月4日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美